英論文紹介: 犬の血液型抗原Dalがついに

先日、お昼休みを利用してまた献血してきました。日本赤十字社から「A型・O型の赤血球在庫が「逼迫」しております。ぜひ400mL献血へのご協力をお願い申し上げます」という、担当者の方の必死さが伝わる緊急メールが届いていたので読み流す訳にはいきませんでした。血液が足りない気持ちは嫌というほど分かります。私の血液でよければ沢山ありますのでどうぞお役立て下さいませと。いざ献血センターへ行ってみると、職員の皆さまに大変スマートにご案内頂き、到着から30分経たないうちに本採血まで終わっていたので驚きです。事前予約していたのでとても順調に事が運びました。

血液が足りないと広報する方、それに応じるドナー、そして献血採血など製剤作製に携わる方や実際に血液を使用される医療機関の方。このいずれもが欠けてはならない存在ですが、個人的に最も共感を覚えたのは血液が足りないと必死に広報されていた方でした。仮に動物病院にドナーの子が自ら歩いてきてくれたら私はその子の健康を損なうことなく献血採血し、そしてその血液を無駄にすることなく治療に役立てることに全力を尽くしますが、まずは広報ありきですからね。血液が不足していることを知らないことには何も始まりません。

しかし、特定のどなたかに声をかけてリクルートさせて頂くことが小心者の私にとって最も胃が痛くなる部分です。清水の舞台から飛び降りる気持ちで毎回お願いさせてもらっているのですが、ご家族の皆様は良い方ばかりなので、二つ返事であっさり協力を買って出て下さる方の多いこと。いつも本当にありがとうございます。その恩返しのために、私もできる限り献血(人間の方です)を行っていきたいと思っています。人→犬、猫に輸血できたら、幾らでも献血するのになぁと思います。まさに心血を注いだ獣医療ですね(笑

さて、だいぶイントロが長くなりましたが今日は英論文紹介です。私が更新している日本獣医輸血研究会の記事もあわせてご参照下さい。今回は犬の血液型の一種である「Dal」という抗原に関するお話です。ダルメシアンがきっかけになって見つかった血液型なので「ダル」と言います。

犬の血液型で世界で最も普及しているものがDog erythrocyte antigen (DEA)の1.1型です。DEA1.1陽性とか陰性とか言ったりします。この血液型がそれほどまでに普及している理由は三つあると考えていて、一つは異型輸血を繰り返し行った場合に急性溶血性輸血反応の原因となるからです。急性溶血性輸血反応とは、輸血の時に最も警戒しなければならない副反応で、折角輸血した血液が体内ですべて壊されてしまうような反応です。壊されて片づけられるだけならまだ良いかもしれませんが、その拒絶反応の過程で致死的なレベルに具合が悪くなります。

そしてもう一つの理由は、犬種や地域により偏りがありますが、イヌという種族全体で考えるとDEA1.1陽性と陰性がおおよそ50%ずつに分かれるという点です。目の前のドナーにしろレシピエントにしろ、上述のようなリスクのある血液型を想定できないのは困りますからね。コイントスの裏表でDEA1.1がどっちになるか決めるような賭けをするより、調べた方が確実ですから。

そしてDEA1.1が普及している最後の一つの理由が、院内でも判定できるキットが市販されていることです。(キットの値段が少し高いのは困るところですが)、このキットの存在は極めて大きいと思います。このキットにはDEA1.1を判定するための「モノクローナル抗体」というものが使用されており、安定した品質で大量生産しやすくできております。

一般の方はこのモノクローナル抗体というものがピンと来ないと思いますが、対となる言葉は「ポリクローナル抗体」です。モノクローナル抗体は実験室内で細胞に作らせることができるのですが、ポリクローナル抗体は動物に繰り返し注射を打って免疫をつけて抗体を抽出して、、、と作業工程が多く複雑ですし、その職人技が途絶えてしまったら二度と作れない可能性もあります。例えて言うなら、モノクローナル抗体は養殖モノで大量生産可能なたい焼き、ポリクローナル抗体は一丁ずつ焼く天然モノのたい焼きみたいな感じでしょうか←いや、すいません、多分違います。ちなみに「たいやき わかば」「浪花家総本店」「柳屋」の東京たい焼き3大御三家はいずれも絶品なのでおススメです。

さておき、今回紹介した論文は、犬の血液型である「Dal」に対するモノクローナル抗体が産生できた!というものなんです。この感動、伝わりますかねぇ。。今まではポリクローナル抗体しかなかったので、おそらく北米在住でないと判定できなかった血液型なんですが、今回モノクローナル抗体が産生できたそうなので、今後うまく産学連携していけたら、3-5年後くらいには日本でも普通に判定できるようになるかもしれないっていうことなんです!伝わっていますかねぇ、、、

以前、猫の比較的新しい血液型の「Mik」というものがあったのですが、その血液型は上述した職人技の伝承に失敗したというか、今はもう抗体が無くってしまったそうなので世界的に判定できなくなっているんです。ちなみに日本でも随分昔に自治医大・日獣大が中心となって犬の血液型に対する良質な抗体を作製していたそうなのですが、色々あって今は消失しています。まさにロストテクノロジー。悲しいです。でも、今回の論文のおかげで、おそらく「Dal」が世の中から消えることはないと思います。全ダルメシアン飼いの方に朗報ですね。ちなみにシーズー飼いの方にも朗報なのです。

犬の血液型であるDalに対するモノクローナル抗体を作ること、結構マイナーで地味な研究だと思うのです。決して世の中の花形の研究ではないかもしれませんが、私はこのカナダの研究チームの方がとても好きになれそうです。人の評価を気にせず、自分が必要だと思うことを熱心に頑張ってその成果を世界に発表するなんてカッコイイですよね。カナダの方に向かって今後のご活躍を祈念して今夜は床につきたいと思います。では皆さま、寒いので暖かくしてお休み下さいませ。

献血センターからの夕景

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