英論文紹介: Dal抗原によるクロスマッチ不適合
ついこの間、年が明けて梅の花が咲き始めたなぁと感じていたような気が致しますが、気付けば花粉症に見舞われて、そして桜が咲いて散りつつある今日この頃ですね。なんだか2023年の春は駆け足な印象です。ということで、3月が通り過ぎていく前に今月のBlog更新を始めたいと思います。月の初めは読者が最も少なそうな英論文紹介です。3年後くらいに誰かの目にとまってその方の役に立ってくれたらな…と言う控えめな思いで毎月書いています(笑 今回は昨年12月の更新に引き続き、犬の血液型抗原Dalに関する報告です。私が更新している日本獣医輸血研究会の記事もあわせて参照下さい。
輸血を行う前には血液型判定とクロスマッチ(日本語だと交差適合試験)を行って、急性溶血性輸血反応という最も危険な副反応を最大限回避するよう注力しています。ただし人間や猫と異なり、犬は規則性抗体を有していないので、初回の輸血時は溶血性輸血反応のリスクは極めて低いとされています。つまり初回の輸血時は拒絶反応につながる抗体を有していないので、血液型が不適合でも大丈夫ということです。ただ、いったん血液型不適合で輸血を行った場合、数日後にはきちんと抗体産生されますので、たとえば1週間後に同じ不適合の組み合わせで再度輸血を行うと大変なことになります。
輸血療法が身近になってきた昨今の獣医療では、初回だけではなく二回目以降の輸血に取り組む動物病院が増えてきているように感じます。その点で、上述の血液型判定やクロスマッチをないがしろにする訳にはいかないので取り組む必要があるわけですが、問題はクロスマッチの方ですね。血液型判定は外の検査機関にお願いすることもできますが、クロスマッチだけは自分で頑張らなければいけません。
これが中々煩雑な手技でして。忙しい診療の傍らに(当院は閑古鳥の鳴き声が響いていますが)片手間で行うにはハードルが高いように思います。個人的にはすべてをシャットアウトしてクロスマッチだけを集中してやりたいくらいです。そうして何とかクロスマッチを行ったところ、結果が不適合だった場合。その落胆度合いたるや。これらの輸血前検査は、輸血の全工程のうちのだいぶ始めの方ですからね。登山で言えば3合目くらいです。3合目まで登って、さぁこれからだ!と思っている矢先に登山口まで突き落とされるような気分です。
今回紹介した論文は、そんなクロスマッチ不適合を10頭以上経験してようやく2頭の適合ドナーをみつけました、というものです。想像を絶する粘り強さです。北米からの報告なので獣医師のマンパワーが相当数いるのでしょうけれども、それにしても最後まであきらめなかったその先生方やご家族のお陰で、非常に厳しい容態ではあったようですが症例は生きながらえることができたようです。
その姿勢を見習って私も頑張っていきたいと思いますが、それにしても10回以上不適合は凄いですね。3合目まで登って振り出しに戻るを10回繰り返していたら、30合分歩いてますからね。山を3回登り終わっています。でもその結果で適合ドナーを見つけて輸血、治療がうまくいった時の達成感はひとしおでしょうね。しかもそれで燃え尽き症候群に陥ることなく、なんでそんなに不適合が続いたのか=Dalという珍しい血液型抗原のせいか!と考察に至った筆者たちは素晴らしいですね。健脚なだけでなく頭脳明晰でもあって羨ましい限りです(笑
本当はもっとこの論文の症例経過の激しさを語りたいところですが、文章量が多くなりすぎるというか原文を読んでもらった方が早いような気もするので、ライトな感じで終わりにしておこうと思います。また来月もよろしくお願い致します!