英論文紹介: 輸血適応疾患の検討-犬の免疫介在性血小板減少症

今年3月の英論文紹介からずーっと輸血適応に関する論文であることを、毎月忘れている自分の記憶力に驚かされます。毎月フレッシュな気持ちで英論文紹介をお届けしているということにしておきましょう。例によって私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。

あ、そう言えば先月の記事更新の際、5/26に第十回学術講習会が開催されることを宣伝していましたが(←これも今記事を読み返して思い出しました)、おかげさまで盛況のうちに終えることができました。私もJSVTM認定輸血コーディネーターの肩書を頂戴して素敵な認定証やバッジを授かりましたので、しばらくこっそり院内に飾っておこうと思います。引き続き日本の獣医療における適切な輸血療法の推進に尽力していきたいと思います。

今回紹介している論文は、犬の免疫介在性血小板減少症(ITP)に関する論文です。免疫介在性血小板減少症は人でも割と一般的な血液疾患のひとつだと思っていますが、犬においても比較的遭遇しやすい疾患です。この疾患は本来身体にとって必要な血小板を、異物だと勘違いして免疫機構が排除してしまうというものです。

同じような疾患である免疫介在性溶血性貧血では、排除されるターゲットが赤血球なので貧血からの体調不良でご家族にも気付かれやすいですが、血小板の方は仮にゼロに近い状態であっても出血するきっかけが乏しいと気付かれづらいかもしれません。人ではアザができやすくなったりして病院に行くこともあるようですが、犬の場合は全身が毛に覆われているので、中々アザに気付きづらいですよね。だからトリミング後に全身点状のアザだらけになって動物病院に相談がくることはよくあります。

犬のITPにおいて点状のアザがでると見た目は痛々しいように映りますが、全身状態が良好であれば、落ち着いて免疫抑制療法を行うことで多くの場合に難なく治療が進んでいきます。逆に全身状態が悪い場合は心配です。上述したように血小板が少なくなっているだけでは具合の悪さというものはあまり出ないはずですから、ITPにおいて具合が悪いということは血小板減少による出血によって何かが起きてしまっていることを指します。

結論から言うと、その多くが消化管出血です。頭蓋内出血の危険性も指摘されてはいますが、経験上あまり多くはないと思います。上部消化管出血で黒色便、特にメレナと呼ばれる黒色でコールタールのような見た目の血生臭い便が出ている時は非常に危険です。ちなみに私と同世代以上くらいの方には「ごはんですよ」みたいな見た目の便、と一時期説明してご家族から分かりやすいと好評を得ていましたが、なんだか桃屋さんに悪い気がして最近は海苔の佃煮みたいな便、と表現しております。幼少期からのり平さんのアニメCMを見ながら育ってきてごはんですよは大好きなので桃屋さん許して下さい。

さて、そのような背景があるせいか、紹介している論文において犬のITPにおける輸血適応としては、やはり血小板数ではなく赤血球数の低下に着目している様子でした。ITPで貧血が出ている時は治療に用いる薬剤を即効性があるものへと強化していく必要がありますし、同時に輸血の準備もしたりと冷や汗をかきながら診療を進めていく必要があるのは北米でも日本でも変わらないということですね。皆さま、アザだけならまだしも、コールタール状の便には要注意です。

以上です。ところで、私はコールタールって身近にみたことないですが、一般的なんですかね。コールタールでも海苔の佃煮でも説明が伝わらない方に対しては何て言おう…と調べていたら、イカ墨と書いている方がいました。なるほど、イカ墨なら欧米の方にも通じるかも。でもイカをさばいたあと墨袋に入っている段階のイカ墨だとサラサラし過ぎているんだよなぁ。イカ墨パスタでもイカ墨リゾットでもないし、やはり海苔の佃煮の方が日本人としてはしっくり来る気がします。分かりやすいインフォームを心掛けて、今週末はごはんですよを買ってきて白米を嗜みたいと思います。