英論文紹介: 輸血適応疾患の検討-猫の尿道閉塞

さすがに今年3月の英論文紹介からずーっと輸血適応に関する論文が続いていますので、今月はちゃんと覚えていました。そうです、今月も輸血適応に関する論文を選ぶぞってやる気を出していたら、タイトルに一本釣りされてちょっと毛色が異なる論文を紹介する形となっております。でももう月末だし後には引けない…ということで例によって私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。

医療関係者や動物病院関係者でない方々にとって、そもそも尿管と尿道がどっちがどっちだっけと言う方も多いですよね。腎臓と膀胱をつないでいるのが尿管で、膀胱から尿の通り道となって出ていくところが尿道です。ちなみに英語もUreter(尿管)とUrethra(尿道)で似ていてややこしいです。今回紹介する論文で取り上げられている疾患は、尿道が何かしらの原因によって詰まってしまう「尿道閉塞」です。

詰まる原因は結石や蛋白成分からなる栓子、あとは炎症や腫瘍による狭窄など様々ありますが、とにかく尿道が閉塞してしまっては危険です。強い尿意があるにもかかわらず尿が出せなくなります。尿が出せないのに腎臓はどんどん尿を作ってきますので、そのままでは膀胱破裂のリスクや、急性の腎障害や尿毒症を呈して最悪、死に至る可能性があります。解剖学的な特徴から雄猫に多い疾患なのですが、トイレへ頻繁に行っているのに半日以上尿が出ていないなど尿道閉塞を疑う症状が出た場合、夜中だったとしたら夜間救急の受診も視野に入れる必要がある案件です。

さぁ、どうでしょうか。直近の2段落において、血という漢字が1ミリも出てきません。このブログのカテゴリー分類は血液の話だと言うのに。しかしですね、原文のタイトルが「Retrospective evaluation of the prevalence and risk factors associated with red blood cell transfusions in cats with urethral obstruction (2009-2019): 575 cases」ですから、どんな切り口で尿道閉塞(urethral obstruction)と輸血(red blood cell transfusions)がつながっていくのだろうと思って読み進めたわけです。

結果、尿道閉塞の症例に対して輸血を実施したケースは622件中13件(2.1%)でした。だいぶ低頻度です。仮に当院で5年間に50件、尿道閉塞の症例が来たとしても輸血適応になる症例は1件の計算です。5年ぶりの登場、みたいな甲子園を目指す高校球児たちであれば常連校の貫禄ですが、輸血適応を常々警戒するべき疾患ではないように思います。

さらに、輸血が必要であった症例は予後が厳しかったという結論を筆者は述べていて、まるで尿道閉塞は輸血がリスク因子になるようなニュアンスを私は読んでいて受けたのですが、そうではなくて、97.9%の症例は輸血せずに済んだ訳で、輸血が必要になる症例ってだいぶ複雑化した難しい症例だったのではと思います。輸血は支持治療ですから、尿道閉塞に対する手術など根本的な治療の足を引っ張ることなく、如何に適切に輸血適応を判断して安全な輸血を行うか。それが大事なのであって、輸血がリスク因子になるというのは、何かキツネにつままれたような。

ということで、風が吹けば桶屋が儲かる的な気持ちになった論文紹介でした。たまにはこんなこともありますよね。来月もどうぞよろしくお願い致します。