顕微鏡写真: 犬の巨大血小板

一年半前の記事で血小板のことについて取り上げていたのは覚えていたのですが、まさか巨大血小板についてはそれほど触れていないとは思いもよりませんでした。今日は主に犬の巨大血小板に関する写真になります。

通常、血小板は赤血球の半分くらいの大きさと言われていて、だいぶ小さい細胞であることは以前の記事で取り上げた通りです。そして厳密な定義は無いように思うのですが、一般的に血小板のサイズが赤血球と同程度になると大型血小板、赤血球より大きくなると巨大血小板(GiantplateletあるいはMegathrombocyte)と呼ばれます。

赤血球と同様に血小板も再生亢進しているときは大型化する傾向にありますが、必ずしもそうではないこともあります。特に猫は何の気なく大きな血小板が出てくることもあるようです。

ネコ末梢血、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

そんな気まぐれな血小板なのですが、巨大血小板性血小板減少症(Macrothrombocytopenia)という遺伝性疾患がありまして、キャバリアが大変有名ですね。キャバリアはβ1チューブリンという微小管、細胞骨格を構成する蛋白質に遺伝子変異を来たしている子が一部いて、血小板を造る過程でうまく血小板を成形することが出来ず、大きな血小板が出来てしまいます。

ドラクエで例えるならば、キングスライムのまま骨髄から末梢血へ放出しているのが巨大血小板性血小板減少症のキャバリア、キングスライムを8体のスライムに分裂させて放出しているのがその他の犬、という感じです(はたしてキングスライムはもとのスライムに分裂できるのだろうか)。キングスライムは一匹でも強いですから、巨大血小板は止血能力も充分あって巨大血小板性血小板減少症のキャバリアも日常生活には困らないとされています。キャバリア以外ではノーフォークテリアとケアンテリアもコマーシャルベースで遺伝子検査の対象犬種です。

問題はですね、その他の犬種においても巨大血小板性血小板減少症なのではと思う症例も時折出会うのです。今回記事を作成するにあたって調べてみると、論文ベースではないようですがチワワ、ラブラドール、プードル、イングリッシュトイスパニエル、シーズー、マルチーズ、ジャックラッセルテリア、ハバニーズ、ボクサー、コッカースパニエル、ビションフリーゼ、Mix犬で巨大血小板性血小板減少症の報告があるそうで(https://todaysveterinarypractice.com/hematology/in-clinic-hematology-the-blood-film-review/)。いつの間にそんなに増えていたのかと驚きました。確かにトイプードルで巨大血小板性血小板減少症を疑った子がいたのを思い出しました。

イヌ末梢血、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

日本犬だと秋田犬が巨大血小板性血小板減少症として報告されていますが、形態が長くて少しキャバリアとは異なるようです。今回こちらにお示しした症例は元気な柴犬なのですが、この子も秋田犬風な長いタイプの巨大血小板のように思います。以前も日本犬Mixの子で巨大血小板性血小板減少症を疑った子がいたので、どこか遺伝的につながっているのかもしれませんね。

イヌ末梢血、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

日本犬の巨大血小板について、大学の先生や検査機関の方々が遺伝子の研究をしてくれれば、割と速やかに良いデータが収集できるのではと思うところですが、少ーしだけマニアックだから関心が集まらないのかなぁ。オーバーン大学というアメリカの大学で巨大血小板性血小板減少症の研究が以前はなされていたようですが、今はその研究受付サイト自体が既におそらくシャットダウンされているという悲しみ。残念です。犬の血小板の研究から身を引いた立場の私は単なる血小板愛好家のひとりですが、今後も細々と生き残っているはずの犬の血小板の研究者の方々を応援していきたいと思います。