顕微鏡写真: 犬のヘモグロビンクリスタル
今月も臨床的意義不明な血液塗抹所見をお伝えして参ります。しかもあまり遭遇することのなさそうなものだからチラシの裏の落書きとなりかねない内容ですが、経緯をお伝えしましょう。
ある日、健康な犬の血液塗抹をたまたま観察していたら、なんだか知らないものが沢山出てきたのです。写真はこちら。
一般の方に比べれば少しばかし血液塗抹について知識は持っている方かと思っていましたが、そういうことってやはりあるのです。うぬぼれてはいけませんね。そこで私はこう考えました。こっそり調べてみよう。皆が知っている知識だったら恥ずかしいですからね。今の時代はAIとかそういうの流行りですから、誰にもばれずこっそりいけるはず。
そこで私の好きなアプリであるGoogle lensさんにお願いすることとしました。Google lensは画像を入力することで、それが何なのか検索結果を表示してくれる便利なアプリです。道端でみかけた虫や小鳥、草木などをスマホで写真撮影し、それを検索ボックスに放り込むと高精度に教えてくれますから。この血液塗抹の写真だって行けるはず。よし、先ほどの写真含めて何枚かを検索ボックスへGo。
結果、赤血球であることを教えてくれました。
うん、そうですよね、知ってる。血液塗抹であることが分かっただけでも評価すべきか。ちょっと血液塗抹の分析はGoogle lensさんにはまだ早かったようですね。
そこで色々調べてみたんですが分からず、何だろうこれはと悶々とすること半日。清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、お世話になっている専門医の先生へメールを送ってみました、これは何ですかと。そうしたら親切にもわりとサクッと返事が返ってきました。Hemoglobin crystalだね、って。
人間の方ではヘモグロビンC症と言って、ヘモグロビンβ鎖の6番目のアミノ酸が、グルタミン酸からリジンに変化している異常ヘモグロビン症で、主に黒人の方にみられる遺伝性疾患のようです。多くは無症状で輸血などの必要性もないようですが、血液塗抹を観察すると結晶用物質を含んだ赤血球(ヘモグロビンクリスタル)がみられることもあるそうで。
犬のヘモグロビンクリスタルに関しては、採血から時間の経過した検体で血液塗抹を作製した場合のアーティファクトとしてもみられるそうですが、そうでない場合に関して臨床的意義は解明されていません。私が今回経験した症例も何かしら異常ヘモグロビン症ではあるのかもしれないなぁと思いますが元気な子ですし、人間のヘモグロビンC症も通常は治療の必要性がないようなのでそのまま経過観察しておくこととしました。
以上です。半日も悩まずに、旅はしていないですが恥はかき捨てではじめから聞いてみれば良かったと思いました。でも途中、Google lensを使ってみたらどうだろうとひらめいたときは名案だと思ったんですよねぇ。お忙しい先生方の手を煩わせるのも気が引けて。この場を借りてメールを返信してくださった先生に御礼申し上げます。
だからGoogleさん、当サイトでも犬や猫の血液塗抹の画像はたくさんアップロードしておきますので、機械学習用の素材としてぜひご活用くださいませ。一緒に精進していきましょう。