顕微鏡写真: 猫の好中球過分葉

以前の職場で、ペットボトルなど自分の持ち物にせがわの「Seg」を書いていました。それを見た同僚が、先生は本当に血液が好きなんですね、って言われてハテナマークが浮かんだのですが、今日はそんなSegの中でもHyperな方のSegのお話です。

好中球は以前に紹介したように、身体の中で「自然免疫」という免疫に携わっています。体内に侵入してきた病原体をいち早くやっつけようと頑張ってくれる細胞です。何とかして現場にはやく駆け付けることがお仕事なので、細い血管の中を通って行ったり血管の壁からすり抜けて行く(遊走と言います)必要があります。

哺乳類の赤血球は細胞分化の過程で「脱核(だっかく)」と言って核を捨ててしまうことにより、変形能を獲得して折り畳まれるように細い血管を巡ることができると言われています。好中球はと言いますと、赤血球より仕事の範囲が幅広いせいか、核を捨てるという選択肢はとらずに「分葉(ぶんよう)」と言って丸かった核をくびれさせてヌンチャクやソーセージの作っている途中みたいな形をとっています。そうすることで、細い血管を素早く通って行ったり遊走ができるのではないかと研究により示唆されています。

ネコ末梢血-桿状核好中球、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

この分葉にもある程度規定回数がありまして、丸い状態からだんだんとくびれてUの字型になったものが「桿状核好中球(通称: Band)」。そこからさらにくびれが増えてヌンチャクみたいにふたつがつながっているようになったら「分葉核好中球(通称: Seg。せがわではない。Segmented neutrophilの略。)」です。

ネコ末梢血-分葉核好中球、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

そのまま分葉は進んでいって2-4個のソーセージがつながっているようなものは平均的な分葉なのですが、5-6個のソーセージになったものは分葉が多めの「過分葉(Hypersegmented)」となります。

ネコ末梢血-好中球の過分葉、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

ここまで丁寧に解説しておきながら犬や猫における好中球の過分葉は、臨床上そこまで重要な所見ではない気もします。好中球の過分葉が多数出現してくると、医学の方ではビタミンB12や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血の診断時に活用されるそうですが、犬や猫だと巨赤芽球性貧血自体が非常に稀な気がします。その他に、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病、プードルのマクロサイトーシス、白血球数増多を伴う慢性炎症でみかけるとされていますが、いずれも特異性の高い所見ではない印象です。

個人的によく見かけるのは慢性的にステロイドを服用している子たちですね。ステロイドを服用すると好中球があまり仕事をせず循環している間に分葉の回数が増えていきますので、過分葉となります。血液疾患の症例はどうしてもステロイドを慢性的に服用してもらうことが多く血液塗抹も観察する機会が多いので、あぁ、また私の処方のさじ加減のせいで好中球が過分葉になっている…治療を順調に進めて早く薬を減量してあげたい、と血液塗抹に咎められるような思いで顕微鏡を覗いています。ちなみに以下の好中球は過分葉もしてますがやや大型なので異形成もありそうです。

ネコ末梢血-好中球の過分葉、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

冒頭のSegの話はお分かり頂けたでしょうか?ペットボトルにSegを書いていたら分葉核好中球のことと思われた訳ですが、持ち物にSeg(分葉核好中球)なんて書いててもさすがに意味不明すぎます。だがしかし同僚の目から見た瀬川はそのような人物像だったのでしょうか。だいぶCrazyな方のSegですね、、、