顕微鏡写真: 犬の標的赤血球

ここまで、たいていが正常な血球ばかりをお示ししておりましたが、今回は変わった赤血球のご紹介です。赤血球は血液塗抹上で最も沢山目にする細胞ですが、それだけに結構見落とされがちというか背景の一部として馴染んでしまっていることが多いように思います。その理由として、以前ご紹介した球状赤血球のように診断に直結するものもある一方、大抵が緊急性の高くない非特異的所見だったりするからかもしれません。でも結構赤血球形態のバリエーションの豊富さは奥が深い気はしていて、診断とは別に目が吸い寄せられてしまうこともしばしばあります。

そこで、今回ご紹介する赤血球は「標的赤血球(Target cell あるいは Codocyte)」です。なぜそんな名前になっているのかという解説より、火を見るよりも明らかな写真をどうぞ。

イヌ末梢血、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色

どうでしょうか。火を見るよりも明らかというのは言い過ぎだった気がしてきましたが、いかにもダーツの的っぽくみえませんか?英語ではこういう的のことをBullseye(牛の目)と言うそうです。

これは赤血球がどうなっているかと言うと、赤血球の容積に対して膜が余ってしまっている状態です。走査型電子顕微鏡で標的赤血球を立体的に観察すると、セントラルペーラーの部分が凹んでいるのではなくて飛び出しているのが見えます。むかし流行った玩具のポッピンアイ(ぽっぴん、ぱっちん、とも)が飛び立つ直前の状態です。わかる人はわかりますよね?(笑

この標的赤血球は様々な際に認められまして、たとえば赤血球再生像が亢進しているときや鉄欠乏性貧血、その他に脂質代謝異常(甲状腺機能低下症)や肝疾患が挙げられます。それだけ候補となる疾患が多いこともありますので、診断の感度や特異性が高い所見という訳ではありません。でもやはり血液塗抹を観察していると目が吸い寄せられてしまうんですよねぇ。幽遊白書の刃霧要を思い出します。死紋十字斑とか懐かしい。

さて、真面目な標的赤血球の話はそれくらいにして、今回もっとも紹介したかった写真はこちらです。

イヌ末梢血、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

どうでしょう。丸眼鏡をかけたような、キャラクター感が増したこの不思議な赤血球が本当に標的赤血球なのかどうかは私も自信ありませんが、目が吸い寄せられませんか?こういう診断とは関係ないかもしれないユニークな細胞と出会うことに、小さな幸せを感じられる人間でありたいと思っています。さて、、数少ない読者の方の視線が痛い気がしたので今日はこの辺で失礼させて頂きます(笑