英論文紹介: 輸血から何日後に再クロスマッチが必要?

前回のBlog更新から少し日数があいてしまいました。はじめの1年間は月3-4回更新を個人目標に掲げているにもかかわらず、いけませんね、9月はじめの投稿が24日になってしまうだなんて。。。五体投地で反省したいと思います。ちなみに、月の最初の投稿は皆様おなじみ?の英論文紹介です。

こちらは勿論、意識の高いご家族の皆様が読んで頂いても良いですし、こっそりと獣医師の生涯学習向けコンテンツとしても意識しております。獣医の先生方の目にチラッと止まってくれたら、安心安全な輸血の一助になってくれれば、幸せになれる動物たちが増えるはずですからね。「動物とご家族の笑顔のために」という当院のコンセプトにも合致しています。今のところ獣医師の知り合いからコメントを頂いたことはありませんが、きっとそのうち誰かが読んでくれるはず・・・

さて、表記の通り今月はクロスマッチに関する研究報告です。別サイト: 日本獣医輸血研究会 Journal club「輸血から何日後に再クロスマッチが必要?」もご覧下さい。ちなみにそちらのサイトも私が2019年から細々と書き綴っております。

クロスマッチとは、日本語で交差適合試験と言いまして、輸血前に行う検査の一つです。英語だとBlood compatibility testingと言ったりもします。患者(レシピエント)と供血動物(ドナー)との血液の適合性を確認する検査で、すごく簡単に言えば、レシピエントとドナーの血液を混ぜて固まったら不適合、輸血したら拒絶反応が起きてアブナイ!という検査です。日本人なら誰でも知っている血液型検査と似たような性質の検査ですが、血液型検査ではお互いの血液を混ぜたりはしません。

血液型が適合していることを前提として、さらにクロスマッチが適合であれば、輸血を行う上で最も警戒される急性溶血性輸血副作用を回避できる可能性が高まりますので、安心して輸血に挑むことができるわけです。えーと、一般の皆様、ここまで、よろしいでしょうか?(笑

実はこのクロスマッチ、血液型検査とは違って、結果が変わる可能性があります。つまり、一度輸血を受けたレシピエントはその血液に対して抗体を産生して、次からクロスマッチが不適合になる可能性があるのです。すなわち、他者の血液を異物と認識して、拒絶する方向性に傾くということですね。でも、それって輸血を受けた後、何日後からそうなるんでしょうか?翌日?3日後?5日後?再クロスマッチはいつ行えば良いの?というのが今回の論文の争点です。

欧米の獣医療では4-day ruleというものがあるそうで、輸血後4日経過した場合、すなわち5日後以降は、前回適合していたドナーであったとしても再度クロスマッチを行うべきとしています。そこにきて、今回の論文の結果では、なんと輸血後4日以内に57%(21頭中の12頭)の犬でクロスマッチが不適合になったとしています。中には輸血12時間後にクロスマッチが不適合化した犬もいたようで、、、おそろしい。

これって、たとえば心臓の悪いレシピエントに輸血を行う場合は半量ずつ、二日間に分けて輸血を行う場合もあるのですが、一日目の輸血は無事にいくけど、二日目の輸血は急性溶血性輸血副作用が起きる可能性があります、ということを示唆する結果なのです。にわかには信じがたい。。。

私のつたない免疫生物学の知識では、未知の抗原に対する一次免疫応答、IgM抗体の産生には7日間くらい要するはずなんです。筆者たちは二次免疫応答で早かったのかもしれない、というような雰囲気の考察を述べていましたが、二次免疫応答の主体はIgGなので、反応増強剤を用いないクロスマッチでは検出できないような気がするんですよねぇ。IgMも二次免疫応答で産生されるんだろうとは思いますが、、ん-。

医学の方では、連日にわたって輸血を受けているレシピエントでは少なくとも3日ごとにクロスマッチ用検体を採血するべきとされているそうなので、輸血翌日にまた輸血を考慮する場合、必ずしもクロスマッチをやり直している訳ではないように思います。医療関係者のご家族様がこの記事をお読みになったら、是非現場の実情を教えて下さい(笑

さて、今回の論文をどう日々の臨床に活かしていくべきか、ですね。実際のところ単発での輸血しか予定していない場合がほとんどなので、当日に血液型判定して、クロスマッチをして、そのまま輸血を同日に終わらせるという流れならば現状のままで良いと思われます。

問題は、その翌日も病態が安定しておらず、再度の輸血を考えなければいけない場合です。時間的、人員的余裕があるのであれば毎日クロスマッチをやり直すべきでしょうが、たいていそういう場合は緊急事態なので、緊急時にどうするか。

んー、私は4-day ruleあるいは医学の3日ごとの再クロスマッチを採用していくかもしれません。悩ましい論文です。このテーマの追試研究、続報の動向には注目していきたいと思います。アップデートがあればまたお知らせしたいと思います。

しかし、今日もマニアックな内容でした。最後までお付き合い頂いた方のために、この夏の思い出の第二弾、アゲハ蝶に続いて今度はカブトムシの写真を載せておきます。すっかり夏も終わって涼しくなりましたねぇ。次回は顕微鏡写真の予定です。一般の皆様が離れていく足音が聞こえる(笑

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