英論文紹介: 猫にもボンベイ型?
クリスマス、皆様いかがお過ごしでしょうか。23日のことではありますが、私は休診時間を利用してまた横浜駅まで献血しに行って参りました。困っている人へ血液のプレゼントなんて、サンタさん一人で献血してたら倒れちゃいますからね。少しでもお力になれればと思い昨年に引き続いて今年も行くことができました。
さて、今月の英論文紹介です。私が更新している獣医輸血研究会のサイトもあわせてご覧下さい。
ボンベイと聞いてボンベイサファイアをまずはじめに思い出してしまうのは辛党な方でしたら仕方のないことでしょう。あの輝くブルーのボトルはインテリアとして素敵な感じがしますし、クラフトジンも流行っていますし。ゴードン、ビーフィーター、タンカレー、ボンベイが四大ジンとして有名ですが…すいません、今日は血液型のボンベイの方です。
人間の血液型と言うとA型、B型、AB型、O型が有名ですよね。あとはRhプラスとかマイナスとか。このボンベイ型という血液型はO型の亜型であって、赤血球表面にA/B抗原はないのでO型と判定されますが、血液型の発現に関わる遺伝子を検査してみると、A型遺伝子やB型遺伝子を持っています。
ボンベイ型はO型の亜型と言っても、H抗原というA/B型抗原の元となっている物質が存在せず抗H抗体を有しているので、普通のO型の人の血液(A/B抗原は無いけれどH抗原は持っている)とも相容れないというところが難しくなります。いわゆる稀な血液型、通称マレケツと呼ばれる血液型で、1万人に1人もいないのでいざ輸血が必要になった場合はドナー確保が大変なようです。同じく?稀血でも鬼滅の刃の登場人物である不死川実弥(しなずがわ さねみ)のマレチは鬼を酩酊されることができるそうで、ずいぶん異なります。
今回論文紹介している猫の症例は、猫の症例においてA型物質とB型物質がいずれも検出されなかった、という点でO型風の取り扱いになっております。ただし人間と違うのが、猫ではそもそもO型という血液型が存在しないはずなので、慌てた筆者たちはその原因を突き止めるべく色々研究されたという流れです。
結果、遺伝子としてはB型の遺伝子を有しているものの、遺伝子の一部に変異が起きていてB型物質の発現量が少ない、あるいはB型物質を発現していないのではという結論になりました。だから人間で言うところのボンベイ型に似ているかもねという考察を述べていたわけです。
個人的には、猫の血液型はABシステムに基づくとは言っても人間のABOシステムとは異なりますし、ボンベイ型という名前が独り歩きすると、なんだか人間の血液型に寄せすぎてキャッチーな雰囲気を演出しているような気がして、少し違和感をおぼえる考察ではありますが、探求心が素晴らしいです。現場の人間からしてみたら、え、この猫は血液型がA型でもB型でもないし、なんならクロスマッチもおかしな結果になってるし、どうしたら良いの…とてんやわんやになっていて原因究明どころか救命も怪しくなってしまいそうです。
医学と違って獣医学における血液型は未解明な部分が沢山ありそうですからね。今回の論文もとても勉強になりました。私の血液は不死川実弥さんのような鬼を酔わせる稀血ではありませんから、今年の暮れはボンベイサファイアでまずは自分を酩酊させるところからだな…とかくだらないことを考えてすいません。日本人で最もポピュラーなA型の私の血液、どなたかのお役に立って健やかに年末年始が過ごせますよう心からお祈り申し上げます。