顕微鏡写真: 犬と猫の赤血球ゴースト

夜はすっかり秋めいてきましたね。今年も夜に病院に残ってひっそりと仕事をしておりますと、向かいの天王町公園から秋の虫の声が聞こえてきます。そこで、夏の終わりに幽霊のお話でもしましょう。幽霊は幽霊でも、今日は赤血球ゴーストのお話です。早速写真をご覧ください。

ネコ末梢血-赤血球ゴースト、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

写真の矢印でお示しした細胞のように、赤血球ゴーストとは、ぼわーっとした赤血球風の細胞のことを指します。これは赤血球が溶血してヘモグロビンが漏出し、赤血球の膜だけが残っている状態です。

ところでghostって日本語訳すると幽霊のことかなと思いますが、日本の幽霊はあんまりこのぼわーっとした半透明みたいな印象が私にはないんですよねぇ。海外のghostは半透明感があるんですかね。映画「ゴースト/ニューヨークの幻」で主演のパトリック・スウェイジは基本見えないように思いましたが、シーンにより半透明になっていたような、どうだったかな…「ゴーストバスターズ」ではどうだったかな、少なくともマシュマロマンははっきりくっきり見えてますね…ま、まぁとにかく赤血球のゴーストはぼわーっと半透明な雰囲気してます。

イヌ末梢血-赤血球ゴースト、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

どうですか?このイヌの写真なんかヘモグロビンがほぼ空っぽなのか、ブラウザの設定次第では見えなさそうですね。まさにghost。

この赤血球ゴースト、溶血所見の一つとして大事なのですが、その解釈に注意が必要です。溶血の過程が生体内で起こっていて、それがたまたま採血で拾われてきたのであればストレートに受け入れて良いのですが、採血後のアーティファクトとしても溶血は起こりうるのです。採血が中々上手くいかなかったり、抗凝固剤との混和が不適切だったり。あとは高脂血症の動物はアーティファクトとして赤血球ゴーストができやすいそうです。そういうことが特になくても、血液塗抹を隅々まで観察したらひとつは必ず見えると思います。

したがって、赤血球ゴースト以外に血清の溶血やヘモグロビン尿など、血管内溶血を示唆する所見が他に認められるかどうかをよく調べていきましょう。有意な赤血球ゴーストの出現を考慮すべき代表的な疾患としては、免疫介在性溶血性貧血、ハインツ小体性貧血、あとは低リン血症などが挙げられます。

以上です。先日はだいぶ日没も早くなった夕方の診療時間に誰もいらっしゃらなかった時間が長かったので、この秋の虫の声の主は何という虫なんだろうとYoutubeで調べながら耳を澄ませていました。どうやらメインで聞こえてくるのはマツムシかなぁ・・・とか真面目に考えていましたが、今思えば違いますね、メインで鳴いていたのは閑古鳥でした。何よりも怖いホラー話です。来月も顕微鏡の世界を宜しくお願い致します。