英論文紹介: 血液バッグの静置方法と混和頻度
食器を洗う際、多くの方は水切り籠を使っていらっしゃると思います。私も水切り籠を使っているのですが、如何にして効率的に水を切ることができるか、そして籠から溢れるほどの量の洗い物を芸術的に積み上げていくことができるか、日々そんなことを考えながら洗い物をしています。
具体的には水切り籠の手前に陶器のコップを置き、奥に鍋の蓋やまな板など大きなもの、真ん中にお茶碗類を並べ、それらをベースにしてプラスチック製の容器を上に重ねていき、最後にフライパンなどの大物もきちんとキュッキュッと音が鳴るまで綺麗に汚れを落としてから重ねます。グラスなどは割れるのが怖いので水切り籠には載せず、洗い物が終わったら即座に水気を拭いて食器棚に収納しています。今日はそんな細部にこだわった研究の英論文を紹介します。私が編集している日本獣医輸血研究会のサイトもあわせてご覧下さい。
献血に行ったことのある方はご覧になったことがあると思いますが、輸血用の血液は血液バッグと呼ばれる特殊なプラスチック製の柔らかい袋に入っています。日本では1980年まで血液保存用にガラス瓶も使われていましたが、ガラス瓶は割れたり重かったり、あとは酸素を透過することができないことから廃止されたそうです。当院では血液の保存までは着手できておりませんが、大きな動物病院では、医療と同様に血液バッグに赤血球濃厚液を作製して冷蔵保存しているところも少なくありません。
しかし「血液バッグを冷蔵保存」と一口に言っても、それは温度管理のことだけではありません。赤血球は生きていますので、何とかして鮮度の良い状態のままで患者さんの体内に送り届けないといけないのです。そんな時にこの研究者の方が気にしたのが、血液バッグの置き方や混和する頻度です。
血液バッグを水平に寝かせて平置きするのか、それともブックエンドみたいなのを使って垂直に立たせて保存するのか、どちらが酸素交換効率が良いんだろう…あるいは血液バッグを静置したら赤血球が沈殿していくので、そのままだと下の方に溜まった赤血球たちは上層にいる赤血球と違って保存液とうまく接触できないから毎日混和するべきか、でもそんなに頻繁に混和していたらその瞬間の温度変化や混和刺激によって赤血球が溶血してしまうかもしれない…ブツブツ…
ということで研究してみた結果、赤血球製剤を長期的に保存するなら置き方は問わず、混和頻度を週一回程度に留めた方が良いという風に私は読みました。筆者の方々は、本論文からは確定的なことは断言できないと仰ってはいましたが、毎日混和しているグループは保存28日目で少し赤血球の溶血が目立つようでしたので。ただ、毎日混和していても、溶血の程度に臨床的意義はないレベルではありました。でも毎日混和するより週一回混和で充分なら、スタッフの労力を考えてそうした方が良いですよね。
どうでしょうか。気にならない人にとっては全く気にならない、日常の割とどうでも良い世界に疑問を持って追求していくこの研究者のスタイルが素敵です。僕も大学院の時に犬の血小板製剤の保存に関する研究をしていましたが、血小板製剤の保存も色々マニアックだったことを思い出しました。
酸素透過性が非常に高いポリオレフィンという独特な素材の血液バッグを入手したり、血小板をゆらゆら振盪保存する向きや一分間当たりの適切な振盪回数を検討したり、ゆらゆら振盪させるのも上手にしないとよどみができますから、人間用の血液バッグの形を犬用に整形したり、あとは血液バッグのラベルが貼ってある面を上にしたら酸素交換効率が悪くなるかもしれないからラベルを下向きにしたり・・・考えるだけでちょっと胸が苦しくなる懐かしい思い出です。
以上です。来月も英論文紹介を宜しくお願い致します。ところで、水切り籠の話はあんまり関係なかったですね。血液バッグの置き方とお皿の置き方の共通点が分かりやすい!と思い非常に筆が乗っていたんだけどなぁ。。水切り籠にこだわりがある方、お話待ってます(笑