顕微鏡写真: アーティファクト 犬のフィブリン塊

検査をしていると日々アーティファクトに遭遇するのですが、このアーティファクトという言葉は一般的なのでしょうか?ご家族様に検査結果を説明するときに、「これは検査のアーティファクトですね」という風に話してしまうこともあり、日本語で分かりやすく言い換えようとしてもピンと来ないんですよね。「検査の人工物ですね」と言っても検査の人工物って何ぞや、って感じます。アーティファクトの類語としてはノイズが挙げられるそうです。要は、生体内では無いけれども、検査という人為的介入を経て生じたもの、ということです。ん-、これは上手く要せている自信がありません。

血液塗抹においても様々なアーティファクトが存在しますので、アーティファクトだけで10回くらい記事が書けそうです。今回はフィブリンの析出です。こちらはだいぶ小さめのフィブリン塊ですが、もっと画面いっぱいに大きくなることもあります。

イヌ末梢血-フィブリン塊、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色

血液塗抹を作製する際、多くはEDTA(今月2回目の登場、「エディタ、エデタ」とかそのまま「イーディーティーエー」と読んだりします)で抗凝固処理した血液を用いますので、本来であれば血液塗抹に血液凝固過程の最終産物であるフィブリンが析出することはありません。どのような時に出てくるかと言うと、採血が上手くいかなくて皮下の組織因子が混入してしまい、シリンジ内で血液凝固が進んでしまった場合などにみられます。いや、私も決して採血が下手な訳ではないですけどね、この採血の時はたまたまね、たまたま手こずったことでしょう。

あとは採血管内で抗凝固剤とうまく混和できなかった場合なども出てきます。CBCで血小板数が少なかった場合、血液塗抹を確認してこのフィブリン塊や血小板凝集塊が多くみられるようであれば必ず再採血をしましょう。フィブリンに血小板が絡めとられてしまって、正しい数が反映されていないかもしれません。そのようなケースを偽性血小板減少と言います。猫の内股からの採血など、時間がかかった場合は要注意ですね。

以上です、と思いましたがオマケでもう一枚まったく路線の違う写真を。

イヌ皮膚押捺標本-Simonsiella、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

こちらはSimonsiella(シモンシエラ)というグラム陰性桿菌です。これが何のアーティファクトかと言いますと、この細菌は脊椎動物の口腔内に常在する細菌なのです。つまり、採血の過程で口腔内の細菌が混入する可能性は極めて低いので、血液塗抹を作製した人がおしゃべりしながら作業をしていて、その唾がスライドガラス上にとんだ場合などにみられるということですね。だから血液塗抹を鏡検していてシモンシエラを見かけると、誰の唾だ…と複雑な気持ちになります。

なお、名誉のために申しますと、このシモンシエラの写真は血液塗抹のものではなく、舐めこわしていた犬の皮膚の押捺塗抹です。舐めているから口腔内の細菌が出ていると言うことです。ほ、ほんとですよ、私は基本マスクして作業してますし、血液塗抹を引くときは息をするのも忘れるほど全集中してますからね、おしゃべりしながらとか、む、むりです…これ以上続けても言い訳っぽくなるだけなので終わりにしましょう。また来月もよろしくお願い申し上げます。