英論文紹介: 犬の輸血に用いる留置針の径

6/8頃に関東甲信越地方は梅雨入りし、6/21の夏至も過ぎまして随分と夏めいてきましたね。半袖で過ごされる方が多くなりましたが、仕事を終えて帰路につく頃は少しだけ涼しいあたり、まだ6月なんだなぁと感じます。関東甲信越地方の梅雨明けは平年7/19頃のようですが、本格的な夏到来に向けて、人も動物も熱中症に十分注意して毎日を楽しく過ごしていきましょう!

さて、今月の英論文紹介は犬の輸血に用いる留置針の径に関するものです。私が更新している日本獣医輸血研究会の記事もあわせてご参照下さい。

そもそも留置針とは何ぞや、という読者の方もいらっしゃると思うので解説しておきますと、血管内に直接注射や点滴を行う際に用いられるプラスチック製のカテーテルのことです。このカテーテルはある程度柔らかいものなので、体の多少の動きがあっても留置針設置部位に痛みを感じることは少ないとされています。テルモ株式会社のサーフロー®留置針という商品が日本では有名すぎるので、施設によっては留置針、と呼ばずに「サーフロー」と呼んでいるところもあります。ですが、留置針は各社から色々な商品が出ているので、使い勝手によって結構好みが分かれるところです。

余談ですが、人間の場合、同じような目的で翼状針と呼ばれる針を使用することもあります。これは蝶々みたいな羽の部分を皮膚にテープで固定してずれないようにするのですが、動物の場合は点滴中にその手を動かしたりしてしまうので、いわゆる「針」そのものを長時間刺したままにすることは危なくて出来ません。

話を元に戻しますと、この留置針には様々な太さがありまして、日本の動物病院で一般的に見かけるものは22G(留置針の色が濃紺色)、24G(留置針の色が黄色)です。「G」は「ゲージ」と読みまして、針の太さの単位のことです。22Gはカテーテル外径が0.9mm、24Gは0.7mmです。わずか0.2mmの違いですが、実際に動物に留置針を設置してみますと、中々にその太さの違いが実感されるのです。5kgくらいある犬や猫であれば濃紺色の22Gが設置できるかなという印象ですが、5kgを下回ってくると黄色の24Gを個人的には第一選択としております。

ところが、今回紹介した論文は「輸血に用いる場合はその留置針の選択、ちょっと待って」というものなのです。この場合の輸血とは赤血球の補充を目的としたものですが、留置針の細いものを選択していると、最大限の輸血効果が得られないかもしれないという話です。具体的には、輸血用血液1μL中に1080万個あった赤血球が、24Gの留置針を通過させると810万個まで減ったというのです。ちなみに16Gというカテーテル外径1.7mmの極太留置を使うと1070万個だったそうなので誤差範囲程度の変化です。

タピオカミルクティーに例えてみましょう。コップの中に100個入っていたタピオカが、あのよく見かける極太のストローを使うと100個すべて口の中に入ってくるわけですが、普通の喫茶店で使われるような細いストローだと80個しか口に入ってこないという訳です。これは大問題です。(いや、たぶん普通のストローでは1個もタピオカ飲めない)

タピオカミルクティーの場合、吸えなかった20個はコップの中に取り残されていそうですが、この論文の筆者たちは、失われた270万個の赤血球たちは細い留置針を通過する間に溶血して壊れてしまったのではないかと問題提起されているのです。

研究手法やその他のデータを読み解くと、本当かなぁと疑わしくなる部分もあるのですが、言いたいことは理解できます。上述したように、5kg以下の子だから黄色、黄色、24Gと盲目的に選択するのではなく、血管の太さをみて、輸血の際は可能な限り太い留置針を用いるよう配慮する必要はあるかもしれません。5kgを下回るような子に濃紺の22Gはまだしも、20G(ピンク色、外径1.1mm)とか難儀ですけどね、、大型犬が多い海外からの報告なので、そのあたりは少し実情が異なりますね。

以上です。個人的には、タピオカミルクティーの太いストローは誤嚥しかけて激しくむせ込んだ経験があり苦手なので、タピオカは別皿に移してスプーンで美味しく頂きたい派です。なんの話でしょうかこれは(笑 また来月もよろしくお願い致します。