シャーリーのキズ
今日は手術のお話です。手術画像は載せませんのでそんなに刺激的ではありませんが、個人的にはホラー要素満載な手術となりましたので、ニガテな方は読み飛ばして下さいませ。
さて、近所の方はご存じのことと思いますが、先日、当院の看板犬シャーリーの鼻筋にあったデキモノを手術で切除しました。思い返せばこのデキモノ、うちにお迎えしたときから鼻筋にポコっとあって気になっていたのです。
本人は痛くも痒くもなさそうだったので、経過観察、経過観察、と日々見て見ぬふりをしながら過ごしておりました。きっと、粉瘤と呼ばれる、皮下に垢とか皮脂とかが詰まった袋を形成するアレだろうなぁと思い。
しかしやはり一番目に飛び込んでくる場所なので、そろそろ避妊手術とあわせて切除しないとなぁと重い腰を上げようとしていた矢先、その皮下腫瘤が自壊したのです。ニキビが破裂したみたいに、外にジュクジュクしたものが出てきました。そして周囲が少し腫れてしまいました。あぁ、これは避妊手術まで待ってられないな、近日中に切除しようと計画を立てました。
と、言うことで、とある土曜日の昼下がり、午後休診の時間を利用して手術を行いました。術前は上記の粉瘤というものを想定しておりましたので、きっと手術と言っても10分くらいで終わるはず、と高を括っておりました。しかし、手術開始5分くらいで異変に気付きます。
「え、なんかデキモノの中から眉間に向かって謎のロングヘアーがごっそりあるんだけど、、、」
ホラーです。皮膚の下に謎のロングヘアーがごっそり詰まっていたのです。毛は本来皮膚の上に向かって生えるものですから、皮膚の下に向かってロングヘアーが生えていたらおかしいわけです。たとえるならば、引っ越してきたアパートのお風呂の排水溝の蓋を開けたら、ロングヘアーがびっしり詰まっていたような感覚です(実体験談)。そこにそんなものがあってはならないですよね。なんとかかんとか眉間の部分まで毛包を辿っていき、頭蓋骨のところギリギリで切除して手術は終了となりました。
東京大学で勤める旧友の病理の先生にシャーリーの検体を提出したところ、その百戦錬磨の先生ですら鼻のところではみたことないしあまり聞いたことのない珍しい事例だったようで。組織診断としては、広義で言えば過誤腫という組織奇形の一種になるそうですが、細かく言えばDermoid sinusなのではないかと。要は、受精卵から一個体へと発生していく段階で、細胞分裂を繰り返していってそれぞれの組織へと分化していくわけですが、その過程でうっかり皮膚とその他の組織が分離されないまま発生したような状況と言いますか。この場合は頭蓋骨あるいは脳の硬膜と皮膚がうまいこと閉鎖・分離されずに、件のロングヘアーが生えていたのではないかと。そんなことって、あるんですねぇ。
こちらは術後31日目の写真です。おかげさまでシャーリーは術後も終始元気でしたし、今はだいぶ毛が生えてきてくれました。おでこあたりの傷と言えば、ハリー・ポッターか流れ星 銀か、あるいは赤い彗星シャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクンですが、シャーリーのは鼻寄りだからキャスバル兄さんのに近いかなぁ。でも名前的にはシャリー・ポッターか。そう考えると、仮におでこの傷が少し残っても僕は好きになれそうです。僕はヴォルデモートではありませんが(笑
いやー、しかし今回の件には驚かされましたが、そんなところまで個性的なわが子は可愛いということで。引き続き看板犬シャーリーを皆さまもどうぞよろしくお願い申し上げます!