顕微鏡写真: 犬の有核赤血球

この間、ヤマトタマムシという虫(虫がニガテな人は閲覧注意です)をみかけて、その大変美しい虹色の外観に驚きを隠せませんでした。緑色の金属光沢です。これは構造色と言って、それ自身には色がついていないそうですが、その微細な構造によって光がきらきら干渉するため色づいて見えるそうです。シャボン玉とかCDとかが虹色に輝いて見えるのと同じ仕組みだそうで。構造色は色素や顔料による発色と異なり、紫外線などにより脱色することがなく死後も色あせないので、昔は装身具に加工されたりしていたとか。確かに綺麗な色でした。でも、ヤマトタマムシの色が茶色なら、大き目なゴキブリにしか見えない気がして複雑な気持ちでしたが(笑

さて、今日は有核赤血球のご紹介です。有核赤血球(nucleated red blood cells: nRBCs)とは、末梢血中でみられる核を持った赤血球のことです。早速こちらの写真をご覧下さい。

イヌ末梢血-有核赤血球、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色

通常、赤血球は骨髄で造血幹細胞から赤芽球へと分化していき、脱核という過程で核を失って末梢血に移行し、最終的に成熟赤血球となります。この赤血球の成熟過程に何かしらの異常をきたした場合、末梢血中に赤芽球=有核赤血球が出現してきます。ちなみに、成熟赤血球が核を持たない理由として、酸素輸送に必要ない核を排除し、赤血球がくしゃっと折りたたまれたり変形能を高めることで、全身の細かい血管、組織へも酸素を効率的に送り届ける機序が考えられています。

イヌ骨髄-丸い有核細胞は様々な分化段階の赤芽球(有核赤血球)、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色

犬ではごく少数の有核赤血球なら生理的にもみられることはあるそうですが、病的な状態としては再生性貧血、敗血症などの全身状態の不良、犬では熱中症、鉛中毒、先天性あるいは後天性の造血異常、脾臓機能異常あるいは脾臓摘出後などが挙げられています。

再生性貧血の際にみられる有核赤血球の注意すべき点としては、有核赤血球だけが増えていて網状赤血球があまり増加していない場合、骨髄では正常に造血できていなかったり赤血球を片付ける脾臓に機能異常が起きているかもしれませんので、原因を精査する必要があります。つまり、有核赤血球は単体では赤血球再生能の指標とはせず、あくまで赤血球再生能の指標は網状赤血球の増加を確認しなければならないということです。

その他に有核赤血球で気をつけておかなければならないのが、白血球との鑑別です。自動血球計数機で有核赤血球は白血球数としてカウントされてしまう傾向にありますので、稀ではありますが再生像の強い貧血など有核赤血球が増加しているような病態では、白血球数が非常に増えているように結果が出てきます。貧血時に限った話ではありませんが、白血球数が大きく増加している場合、常に血液塗抹で確認してその分画を確認するようにしましょう。

血液塗抹で有核赤血球を判定するのはそれほど難しくないかもしれませんが、赤芽球はものによってリンパ球や形質細胞と似ているように個人的には思いますので、こちらにそれぞれの写真を挙げておきます。

イヌ末梢血-リンパ球、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色
イヌリンパ節-形質細胞、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色(再掲)

いかがでしょうか?赤芽球もリンパ球も形質細胞も簡単にお判り頂けましたでしょうか?玉虫色の分類にならないようバシッと鑑別していきましょう。この「玉虫色」という表現、見方や立場によっていろいろに解釈できるあいまいなことを指すもので、どちらかと言えば否定的な場面で使われることが多い印象です。ヤマトタマムシの構造色があまりに綺麗だったので、なんだか擁護したいような感覚を覚えた2023年の初夏の出来事でした。でも、ヤマトタマムシの色が茶色なら、大き目なゴキブリにしか見えない気がして複雑な気持ちでもありました(笑