英論文紹介: クロスマッチとクームス血清

2024年の1月も間もなく終わりそうになっておりますが、恒例の月末なので新年の初投稿となります。2023年の元旦の朝はパン切り包丁で指を切ってしまったので、今年はとても気を付けて過ごしておりました。おかげさまで特に問題なく過ごせていたのですが、気のゆるみは突然に。休日にカッターナイフで割り箸を加工していたら(謎ですね)、指先をざっくり切ってしまいました…昨年ほど傷口は深くありませんが、刃物を使うときは気を付けないといけませんね。冷静に考えたらそりゃ指に刺さるよという角度でした。

さて、今回の英論文紹介はクロスマッチとクームス血清に関するものです。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。

当ホームページをご覧の皆様はもうクロスマッチのことは重々承知のことと思いますので、クームス血清についてご説明致します。分子量の大きなIgM抗体はそれだけで赤血球を凝集させることができるのですが、分子量の小さなIgG抗体は単体では赤血球を凝集させることができません。不完全抗体とか言われています。その赤血球に結合しているIgG抗体を検出するため、IgGに対する抗体を加えることで雪だるま式に大きな塊にして凝集反応を検出しよう、とするのがクームス血清の役割になります。ニュアンス的にはゲームの塊魂みたいな感じでしょうか(ビルくらい大きくはなりません)。

医療では間接抗グロブリン試験という名前でクームス血清を用いたクロスマッチが当然のように組み込まれているようですが、獣医療では犬猫用のクームス血清が入手しづらいこともあってか、あまり一般的に行われているものではありません。今回の文献紹介では、結果的に間接抗グロブリン試験も並行して行った方が良いかもしれないという研究結果ではあるのですが、個人的に気になるのはその組み合わせで輸血を行ったら何が起こるのか、という点です。試験管内では反応が起きていたとしても生体内で起こる反応なのかどうかは定かではありません。

医療の方では、臨床的意義のある抗体とそうでない抗体に分類して、臨床的意義のある抗体の方を警戒しながらクロスマッチを行っています。それはこれまでの症例情報や研究成果の蓄積のたまものであると思うのですが、獣医療でもいつかその水準まで進歩していけるよう頑張っていかないといけませんね。そもそも、比較的入手しやすい犬のクームス血清ですら日本では私の知る限り売られておらず、北米から個人輸入しなければいけない時点で、零細動物病院の当院としてはハードルだいぶ高めです。

一年の計は元旦にありということで、いきなりクームス血清を取り入れることは非現実的なので、自分にできることは日々漫然と輸血を行ってしまわないように気を付けること、と致します。そしてアルコールで手指消毒するたびに染みる指先を通じて、刃物の取り扱いについて反省しながら2024年を過ごそうと思います。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。