顕微鏡写真: 猫の赤芽球の脱核
赤血球の造血過程において、骨髄で造血幹細胞から赤芽球へと分化していき、脱核という過程で核を失って末梢血に移行し、最終的に成熟赤血球となることは以前の記事にも書かせて頂きました。実際にどのような形で脱核しているかと言うと、以下の写真のようになります。
赤芽球の端っこの部分から核が放出されているような様子がみてとれますよね。脱核した赤血球はいわゆる多染性赤血球であり、末梢血を1-2日間循環していく中で段々と細胞質の青みが薄れていって成熟赤血球の色合いになっていきます。そうして人間だと日々200Bilion…なので2,000億個も赤血球を造っているそうです。理論上は犬や猫も数百~数千億個の赤血球を毎日作っているはずなので、毎日とんでもない数の脱核が身体の中で起こっている訳です。
この脱核のプロセスはまだ完全には解明されていないようですが、私の調べた限りではアポトーシスのような核濃縮が起きること、極度な不均等細胞質分裂により核が細胞内で押しやられること、収縮環(アクトミオシン)なるもので核が分離されることが考えられているようです。ちなみに毎日何億個も脱核された核がそのまま循環していては都合が悪いので、マクロファージが速やかにお片付けしてくれるとのことで。骨髄中では赤芽球とマクロファージが赤芽球島を形成して接着して存在していますしね。よく考えられています。
という記事を書こうとして英語で調べものを色々して文章校正を練っていたのですが、秋田大学の先生が2017年に学術雑誌上で素晴らしいReviewを日本語で書いていらっしゃいました。これがすごい熱量あふれる内容で。正直、細かい話過ぎて私程度の知識では追いつけないところだらけなのですが、要所要所で動物の進化のプロセスにまで言及されていて。赤血球の造血というか、その中の脱核の話で9ページも文章を書けるのかと驚きました。そしてさらに調べていたらその先生はこのReviewを書いた年くらいに恐らくお亡くなりになられたようで。とても悲しい。。心よりお悔やみ申し上げます。
脱核が自分の体内でも毎日何千億個と生じていること、そして脱核がロマンあふれる理論に支えられていること、何より人生をかけて脱核を追究している方々がいらっしゃること。これまで血液塗抹や骨髄塗抹で脱核している赤芽球をなにげなく見ていましたが、今後見る目が変わりますね。赤芽球の脱核、私の2024年夏の自由研究の良き題材となりました。皆さまもこの夏、何か新しい発見はありましたでしょうか?