英論文紹介: 猫における回収式自己血輸血

新年あけましておめでとうございます。2025年末の仕事納めのあと、今回は24時間以内に何か厄災が降りかかってくることは幸いにしてありませんでした。例の今までずっと無料という契約で使わせていただいたドメインが有料になってしまったので、勉強もかねてためしにドメイン管理会社を他の会社に移管してみたら、ドツボにはまってさらに値段が吊り上がったような気がしてならない、というくらいですね。まさに遺憾の意です。

さておき、今日も英論文紹介に参りましょう。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧ください。今回紹介する論文は、猫の避妊手術後の腹腔内出血に対して、回収式の自己血輸血を行うことの安全性に関する研究報告です。

避妊手術の最大のリスクのひとつが術後出血であることは有名ですが、対処法としては再開腹して出血部位を特定し、結紮など必要な外科的処置を行うことと並行して輸血療法を検討することになると思われます。その際、一般的な輸血療法としては、他家血輸血と言って他のドナーから献血された血液をレシピエントに輸血していく訳ですが、今回話題とされているのは自己血輸血と言ってレシピエント自身の血液を利用する方法です。

意外と当ブログで自己血輸血について触れたことが無かったようなので概説しておくと、自己血輸血は文字通り自己の血液を使用するので、他家血輸血で見られるような免疫原性による拒絶反応や感染症の伝播を心配することなく、安全に輸血を行うことができます。

自己血輸血は貯血式、希釈式、回収式の三種類に分類されるのですが、貯血式とはたとえば数週間先に行われる待機的な手術に向けて自己の輸血用血液を採血して貯めておく方法、希釈式は手術の麻酔をかけた直後に輸血用血液を採血して確保すると同時に同量程度の輸液で体液を希釈する方法、そして回収式は手術中に出血した血液を輸血用血液として回収する方法となります。

理想的な回収式の自己血輸血においては、術野の血液を専用の機器で回収し、生理食塩水で洗浄して不要な成分を除去した上、赤血球を濃縮後に返血していきます。獣医療においてもそのような装置を用いて回収式の自己血輸血を行っている研究報告はありますが、まだそのような装置は一般的ではありません。したがって、今回紹介している論文ではメッシュを用いて大きな不純物を除きながら術野から血液を回収し、輸血セットのフィルターあるいはHemo-nate®の微小凝集塊除去フィルターを通して輸血を行っています。

結果、回収式の自己血輸血が猫の予後に悪影響を及ぼすことはなく、8割以上の症例が無事に生存退院することができたとありました。また、筆者たちは別の研究において、避妊手術を行った猫9,513頭中77頭(0.8%)で術中の大量出血を経験したと報告していますので、この回収式の自己血輸血が活躍する場面はそうそうないことが分かります。しかしながら、緊急事態に備えて後進にこのようなデータを残してくださったのはとても頼もしいですね。

個人的には、回収した血液を生理食塩水で2-3回遠心洗浄してから輸血したらもっと良かったのになと悔やまれるところはありますが。回収血は溶血して遊離ヘモグロビンが含まれていたり、脂肪もたくさん浮いているので、それぞれ腎臓や肺に障害を与えそうでそのまま輸血に用いるのは少し心配があります。まぁ、それでも8割以上の症例で問題なかったということなので潔癖に気にしすぎなのかもしれません。

以上です。ドメインでごたごたしていたのをすっかり忘れてしまうくらい、万が一に備えて常に精進しておかなければいけないなと身が引き締まる論文でした。