英論文紹介: ドナー猫とヘモプラズマ感染症

なんだかここ数日、夏の暑さが和らぎつつあるようなと思っていたら、8月がもう間もなく終わりを迎えようとしているのですね。どおりで夜に残業をしていると秋の虫みたいな声がよく聞こえてくるわけです。とは言え、昼間は十分に暑いので皆さまも残暑には気を付けていきましょう。では今月の英論文紹介です。今回は猫の血液とヘモプラズマ感染症に関するお話です。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。

猫のヘモプラズマ感染症というのは、猫の赤血球表面に寄生する細菌感染症です。赤血球に寄生していることから、猫のヘモプラズマは輸血によって伝播していく可能性が懸念されます。不顕性感染している健康な猫が存在している一方、輸血せざるを得ないレシピエントは多くの場合に免疫が低下している状況にありますので、レシピエントの方で病原性を発揮してしまう危険性があることが難点です。

そこで、ヘモプラズマ感染症が輸血によって伝播していかないように努める必要がありますが、ヘモプラズマは細菌と言ってもマイコプラズマと呼ばれるジャンルのものであり、通常の細菌が1-10μm程の大きさであるのに対して、マイコプラズマは0.2-0.3μmほどとだいぶ小さいと言われています。したがって、光学顕微鏡で見えるか見えないかギリギリなので塗抹上のゴミとの鑑別が難しく、猫のヘモプラズマ感染症の確定診断には遺伝子検査を用いることがほとんどです。結果まで数日かかる外注検査ですね。

そうなると、いつヘモプラズマの検査をして、いつ献血をすればいいのかが困ります。理想的には、人間の献血のようにひとまず献血してもらい、全検体で感染症の検査を行うのが良いと思われますが、如何せん血液バンクを作ることのできない日本では、それだけのマンパワーや資金の調達が困難です。しかし今回紹介しているヨーロッパのグループでは、献血してもらった血液を全例、ヘモプラズマなどの感染症検査を行っていたそうです。さらに、感染が発覚したらその血液は廃棄と書いてあったので、検査に何日かかっていたのかは分かりませんが結果がでるまでの間、血液製剤を使用せず保管だけしていたのかと驚きました。

結果的に、健康だと思われていたドナー猫の5%がヘモプラズマ感染陽性だったそうで、ちょっと見過ごせない有病率の高さでした。日本国内ではドナーの組み入れ時や年1回程度ヘモプラズマ感染症の検査を行うことが多いですが、それ以上のハイペースで検査を行っている施設は聞いたことがありません。ただ、日本のドナー猫のヘモプラズマ有病率がヨーロッパほど高くはないという個人的な印象もありますので、少なくとも定期ドナープログラムへの組み入れ時には検査をするとして、献血の都度は血液塗抹を確認するくらいしかやりようがない気がします。そもそも日本では猫の血液を適切に保管するための猫仕様の血液バッグがないため、検査で数日かかっていたらその間に血液がダメになりそうですし、、、

以上、今回の論文も中々考えさせられる内容でした。ヘモプラズマの院内検査キットでもあれば話は違うかもしれませんが、遺伝子検査ですからねぇ。そしてこのポルトガルの動物用血液バンクを介した輸血はいくらくらい必要なのだろうかと気になりました。少なくとも輸血にかかる費用が日本の2-3倍は発生しないととても回らなそうな気がします。とりあえず、私は明日からも血液塗抹を可能な限り凝視しておこうと心に決めました。来月も英論文紹介をよろしくお願い致します。