顕微鏡写真: 犬のリンパ球
先日、ワールド・ベースボール・クラシックが盛り上がっていましたね。日本代表の皆様、感動をありがとうございました。個人的には、あれだけ皆がWBC、WBC、WBCと言っていたのに、まったくもってWhite blood cell(WBC: 白血球)のことを思い出さなかった自分に失望しました。そんなたるんだ気持ちを戒める意味で本日はWBCの中の一種類である、リンパ球を紹介したいと思います。
リンパ球はワールド・ベースボール・クラシックではない方のWBCなのでもちろん免疫に関わる細胞なのですが、バリエーション豊富な細胞であり、大きくT細胞、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞の三種類に分けられます。それぞれが自然免疫であったり獲得免疫であったり、細胞障害性であったり、あとは抗体産生を担っていたりと、その仕事は多岐にわたっています。私もそのリンパ球の仕事の深淵まで理解できているとは到底思えませんし、今もまだ免疫学者の先生方が熱心に研究を続けてアップデートし続けているジャンルです。
さて、当ブログは免疫学的な細かい話をする場所ではないので置いておいて(逃げました)、形態学的にご覧頂きたいと思います。こちらは犬のリンパ球です。
リンパ球のサイズは犬も猫も大きくは変わらず、直径約9-12μm、赤血球より少し大きくて好中球よりは小さいものが多いです。核は円形で細胞の中で少し端っこに寄っていることが多く、偏在、と言います。そして核の色合いは結構黒がちで、クロマチン凝集と言ってブツブツとした濃い点を認めることが一般的です。また、細胞質は狭くてうっすら青みがかっています。後出しですが、このようなリンパ球のことを小リンパ球と言って、犬や猫だと最も一般的にみられるリンパ球です。
その他のリンパ球としては、たとえば反応性リンパ球があげられます。こちらはワクチン接種後など何かの免疫応答で出てくるリンパ球の一種でして、一見、悪性度が高そうな細胞に見えるのでドキッとします。
いかがでしょうか?同じ症例の小リンパ球を下に示しますが、雰囲気が違いますよね?
反応性リンパ球は先程のように細胞サイズが大きめのものから、小リンパ球とあまり変わらないようなものまであります。共通しているのは核のクロマチン凝集がブツブツと黒くしっかり認められることや、細胞質の色合いもだいぶ濃い青を呈していることです。特に核のクロマチン凝集がしっかり見える=成熟した細胞という点が重要で、腫瘍性リンパ球などの未熟な細胞はクロマチン凝集がほとんど見られませんので注意しておきましょう。
反応性リンパ球以外のリンパ球のバリエーションとしては、顆粒リンパ球があります。その名の通り細胞質に赤紫色の顆粒を有しており、細胞障害性T細胞あるいはNK細胞のどちらかと言われています。
小リンパ球に比べて血液中での出現頻度は少なめですが、健康な動物の血液中でも観察できます。とは言え、好酸球の顆粒なんかと比べると顆粒のサイズが結構小さくて数も少ないので、そもそも顆粒の存在をあまり認識していなかったら気付かないことも多いと思います。また、顕微鏡の解像度が低いと純粋に見えない可能性もあるのかもしれません。
以上、リンパ球特集でした。特集と言っても血液塗抹ではあまり遭遇しない形質細胞(写真は以下)は詳細割愛させて頂きました。形質細胞は初めて覚えたリンパ球の仲間だったので結構好きなのですが。なんか目玉焼きみたいというか目玉のおやじみたいというか、顕微鏡のレンズ越しに目が合うような感覚になります。
リンパ球は犬や猫で比較的よく遭遇するリンパ腫という悪性腫瘍の診断をする上で非常に重要な細胞ですから、日頃から意識して観察しておきたいですね。さぁ、WBC、WBC。もうWBCと言ったら白血球ですよ。2026年の次回のWBCまで、WBCと言ったら白血球の方を思い出すようにしましょう。
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