英論文紹介: 白血球除去フィルターの実用性
お盆ですね。皆さまはいかがお過ごしでしょうか?帰省先によっては台風の動向が気になるところですね。台風以外にも夏休みの事故や災害にはくれぐれもお気を付けてお過ごし下さい。なお、当院は8/15の午後、8/22の終日で臨時休診を頂いておりますが、それ以外は通常通りの診療となっておりますので、お力になれることがあれば気軽にご相談頂ければと思います。
さて、今日も英論文紹介をしていきたいと思います。このBlogのカテゴリー、飼い主様はきっと誰もご覧になっていないと思っていたら、先日の猫の輸血用全血の保存性に関する記事に関して診察時にディスカッションして下さった方がいらしたので感無量です。と言うことで、チラシの裏シリーズ、今日も張り切っていきましょう。今回は犬の白血球除去フィルターに関する話題です。マニアック。別サイト: 日本獣医輸血研究会 Journal club「白血球除去フィルターの実用性」
白血球除去は通称「白除」と言います。まず医学において白除をなんで行っているかと言うと、輸血用血液の中に含まれるドナーの白血球は種々の輸血関連有害事象に関与することが明らかになっているからです。たとえば、非溶血性発熱性輸血反応(FNHTR)という、輸血を行ったら発熱してぐったりする反応があります。これは、血液製剤に含まれるドナーの白血球抗原(HLA)に対する免疫反応や、血液保存中に放出、蓄積されるドナー白血球や血小板からの炎症性サイトカインが原因として考えられています。その他の有害事象としては、白血球内に存在するウィルスや細菌などの病原体の伝播が挙げられます。そこで、これらの有害事象の原因となる白血球をあらかじめ除去してしまおうというのが白血球除去です。
犬においても白血球除去フィルターの有用性は2010年頃から論文が散見されるようになりましたが、中には、それほど有効性は感じられなかったとするものもあります。特にここ最近出ている論文は、白除の有効性を示すことが出来ていないものが多い印象です。前述した理論上、医学において白除は良いことずくめのような気がしますが、犬においては研究成果が逆風となっていますね。
では、白血球除去フィルターのデメリットは何かというと、たとえば白血球以外の細胞も除去されてしまうことが挙げられます。日本獣医輸血研究会のサイト内でも示したように、旭化成メディカルさんが作るセパセルRZというフィルターでは、血小板は99.9%除去、赤血球も7.0%除去されてしまいます。直感的に言えば、200mL採血してフィルターを通すと、186mLしか残らないということです。ちょっと勿体ない感じはあります。勿体ないと言えば、コスト的にもフィルターの価格だけで数千円?(おそらく、です)はしそうなので、白血球除去の有用性が客観的に証明されない限り、獣医療費が単純にかさんでしまう計算です。あとは、これは大した手間ではないですが、血液バッグを高いところにぶら下げて重力でフィルターを通す作業に10-20分くらい要します。
中々悩ましい現状ですよね。上述の論文内では、白血球除去したからと言ってやたらとスタッフの作業時間が長くなったり、完成した赤血球製剤が極端にボリュームダウンしているわけではありませんよ、という肯定的な結論になっていました。しかし臨床的な有用性を証明しきれてないのがネックです。日本国内でおそらく白血球除去をルーティンに行っている施設は私の知る限りありませんが、今後どうなんでしょうか。確かに、保存期間の長くなった赤血球製剤を輸血すると発熱の副作用は若干多いような印象はありますが、輸血を中止したり治療が必要なレベルまでの発熱はそう多くないかもしれません。
当院でもいずれ輸血用血液の大型遠心機や血液保存専用の冷蔵庫を購入したら、輸血用血液の保存を稼働させ始めたら白血球除去フィルターどうしようかなぁ、そもそもフィルターを購入するのすら日本では大変そうだよなぁ、個人輸入かなぁ、、、とか絵空事ばかり語っていたら鬼に鼻で笑われそうです。まずは空を飛ばずに地に足をつけて、診療を地道に頑張っていきたいと思います(笑