英論文紹介: Dal陽性率の国による違い

朝晩は少しずつ涼しくなってきて…なんて先月末に書いていたと思ったら、今月はぐっと寒くなってきましたね。縁あって毎年夏の間のオフの時間は柄にもなく柄だらけのアロハシャツを着て過ごしているのですが、今もジャンパーの下はアロハシャツでして。そろそろアロハシャツの季節は終わりなのかなぁと思う今日この頃です。さて、今月も英論文紹介の時間です。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもよければご覧ください。

これまでの英論文紹介でDalという血液型については3回も登場しているので皆さまご存じのことと思われます。簡単に言うと一部のダルメシアンで欠損していることから発見された赤血球抗原であり、Dal陰性犬にDal陽性犬から輸血をすると感作され、2回目以降の輸血では急性溶血性輸血反応を引き起こす可能性がある点で重要視されています。と、ここまで書いていて過去の当ブログを振り返ってみましたが、我ながら与太話ばかりで肝心のそういう話が一切書かれていませんでした。

なのでもう少しDalについてお話しておくと、この抗原は多くの犬(文献によりますが9割以上)が陽性、すなわちDal抗原を有していることが明らかになっているのですが、中にはDal陰性犬が他と比べて多い犬種も報告されています。たとえばダルメシアンは約1割、ドーベルマンは約4割、シーズーは6割弱がDal陰性であることが指摘されています。だから以前紹介したように、Dal陰性ドーベルマンに対して2回目の輸血を行おうとしてら、クロスマッチ適合ドナーを見つけるのに10頭以上探し回った、みたいな事件が発生する訳です。日本国内だとシーズーはよくみかける犬種なので、シーズーがレシピエントになった場合は2回目以降の輸血時にドナー捜しで難航するかもしれません。

ところが、これらは欧米の研究データに基づく結果です。欧米の血液型のばらつきとそれ以外の国では同じなのか。はたまた国ごとに遺伝的偏りがあってもおかしくないので、自国の状況はどうなのか。そう考えた韓国の研究者の方々が、自身の動物病院に来られたドナーやレシピエントの血液を用いて、Dal陽性率を中心に調査したのが本研究の主な目的です。

結果、Dal陽性率は77.14%であり、欧米の報告と比べると1割以上Dal陽性犬が少ないようでした。特に、本研究で最も検査されていたラブラドールレトリーバーは33.3%がDal陰性であり、Dal抗原を有さないドナーとしては好ましい傾向ではありますが、繰り返し輸血が必要なレシピエント側になった場合、身体のサイズも相まってドナー捜しは厳しくなる可能性が懸念されます。ラブラドール同士で捜すか、上述の欧米の報告ではドーベルマンもDal陰性が多いようなのでドーベルマンをあたってみるかですね。日本でドーベルマンに遭遇する頻度はかなり低いですが。

ちなみに、その韓国のラブラドールたちはDEA1.1陰性犬が40.7%もいたそうなので中々2回目以降の輸血時に苦戦しそうです。DalもDEA1.1もダブルネガティブなドナー捜し。んー、、日本国内で置き換えてみるとDalの判定キットが流通していないので、とにかくたくさんのドナーから手当たり次第にクロスマッチを仕掛けてみるしか方法がないです。クロスマッチが片っ端からあわないなかで、10頭目くらいで適合判定が出たときに光明を見出すことが出来たと思うか、はたまた自分のクロスマッチ判定が間違っているんじゃないかと疑心暗鬼にならないかどうか。難しいところです。

今日の論文紹介は以上です。まずこの論文を見つけた中で一番最初に思ったのは、お隣の韓国の先生方がDalの判定キットをアメリカから輸入している!でした。韓国まで届いているなら日本だって普通に入手できそうです。お値段が中々張ってしまいそうなので日々の診療で使いやすいものではありませんが、日本でも研究してもらいたいなぁ。大学の先生方、どなたか日本国内のDal陽性率について研究して下さいませんか、、、