顕微鏡写真: 異常なハウエルジョリー小体

プードルのマクロサイトーシスという家族性の赤血球の病気というか体質があります。体質、とした理由はマクロサイトーシスだとしても具合が悪くなるわけでも、貧血が進行していくわけでもなく元気だからです。マクロサイトーシスは日本語で巨大赤血球症、みたいな訳になると思うのですがあまり一般的ではないかもしれません。しかし読んで字のごとく、マクロサイトーシスのプードルは赤血球が他の犬よりも圧倒的に大きく、MCVという赤血球の大きさを表す数字が100fL(フェムト リットルと読みます、10のマイナス15乗 リットル)くらいあります。一般的な犬のMCVは60-70fL、猫は40-50fLですから、だいぶ大きいことが分かります。

ところで、人間のMCVは80-100fLくらいで、象は約130fLとかなり大きく、ヤギやヒツジは約30fLと最小クラスだそうです。意外と牛や馬は身体に似合わず猫くらいのMCVで40-50fLくらいです。このように身体のサイズと赤血球のサイズは比例している訳ではなく、赤血球を小さくして身体の隅々まで酸素を行き渡らせ、ガス交換能を高めているのではないかとも考えられているようです。

さて閑話休題、プードルのマクロサイトーシスに戻りましょう。プードルの一部の家系は上述のように赤血球を作るのがあまり上手ではなく、他の犬より大きな赤血球を作るのですが、その造血の過程で骨髄では異常な赤芽球系細胞がみられたり、末梢血では赤芽球系細胞や異常なハウエルジョリー小体がみられたりします。ハウエルジョリー小体は、以前のこのブログでちらっと紹介したことがある、核の遺残物のことですね。同じ猫のハウエルジョリー小体の写真を再掲しておきましょう。

ネコ末梢血、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

そこで、今回紹介する写真はマクロサイトーシスを呈する健康なトイプードルの異常なハウエルジョリー小体です。赤血球の一粒一粒が先程の猫と比較して大きいのも伝わってきます。

イヌ末梢血、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色
イヌ末梢血、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

先程の正常な猫のハウエルジョリー小体と比較して、マクロサイトーシスの異常なハウエルジョリー小体は数がたくさんみられたり、ひとつひとつのサイズがバラバラだったりしていることが一目瞭然かと思います。何も言われずにこの血液塗抹を観察したら驚きますね。同じように異常なハウエルジョリー小体が出てくる病態としては、骨髄異形成症候群が挙げられます。

この記事の着想に至った経緯は何かと問われれば、以下にお示しするオバケのキャラクターみたいな可愛いハウエルジョリー小体の写真が撮れたからです。スマホの壁紙や何かのアイコンにしたくなりますよね。え、なりませんか?なりますよね?さて、皆様からの視線が痛い気がするので本日はこのあたりでおしまいにしたいと思います。来月もよろしくお願い致します。

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