顕微鏡写真: 犬のビリルビンクリスタル
この顕微鏡写真のカテゴリーは獣医師国家試験や愛玩動物看護師国家試験など勉強している方々が時折見て下さっているようで大変うれしく思います。誰かの何かのお役に立てているようなら幸いですね。しかし、今回の血液塗抹におけるビリルビンクリスタル、国家試験にでることはまずないと自負しておりますのでご安心下さい。血液塗抹をみていて綺麗だなぁと思って記事にしてみただけなので、、、
ということで今日もたまたま出会った血液塗抹の写真を紹介したいと思います。犬のビリルビンクリスタルです。日本語だとビリルビン結晶と言えば良いのかもしれませんが、日本語で調べても出てこなかったので、そのままBilirubin crystalとしておきます。先日紹介したヘモグロビンクリスタルと少し名前が似通っていますし出自も似た感じはありますが、全くの別物です。写真はこちらになります。結晶にピントをあわせたので背景の赤血球はややボケています。

本当はマクロファージや好中球など貪食細胞内におさまった状態の写真を撮りたかったのですが、この黄金色というか茶色く輝くキラキラしたものがビリルビンクリスタルです。ビリルビンクリスタルは、ヘモグロビンが貪食細胞によって分解されることで生じますので、たとえば溶血性疾患や組織での慢性出血を片付けようとする過程でみられることがあります。この症例は血液塗抹の観察だけお願いされた知人のものなので詳細は不明ですが、肝臓の血管肉腫を疑う犬の症例のものです。以下にお示しするように破砕赤血球がものすごい頻度で出ていましたので、おそらく細血管障害性溶血性貧血をおこしていたか、組織での慢性出血がみられていたためにビリルビンクリスタルがみられたのかなと推測しています。

ところで、ビリルビンと類似したものにヘマトイジンがあります。獣医学の方では低酸素環境下でみられるとか、そもそも同じもののように漠然と記載されていましたが、医学の方ではヘマトイジンは尿路など閉塞した腔内で陳旧性に大量出血しているときにみられると若干異なるニュアンスで書かれていました。犬と異なりビリルビン結晶が尿にみられることのない人間の場合、尿中に茶褐色の結晶が出ているとそれがビリルビンなのかヘマトイジンなのかを考察する必要性があるそうです。
残念ながらビリルビンとヘマトイジンは肉眼的に鑑別が難しいようですが、ヘマトイジンは鉄を含まないのでベルリンブルー染色陰性だったり、あとは化学的な検査から確定に至るようで。今回お示しした犬の症例は低酸素環境でも閉塞した腔内で大量出血を起こしている訳ではなかったので、ヘマトイジンではなくビリルビンクリスタルだったはずと考えています。
以上です。とてもマニアックな内容ですね。獣医師国家試験と愛玩動物看護師国家試験の受験生におかれましては、2月中旬に試験が終わったとのことで大変お疲れ様でした。それぞれ合否発表は3月中旬のようなので生きた心地のしない時間を過ごされている方もいらっしゃるかもしれませんが、まずはゆっくりと休んでどうぞご自愛くださいませ。当時の私は何をしていたかなぁと思い返してみたら、そう言えば国家試験が終わって数日後に大学院の入試があったので、そのまま受験勉強その2に移行して今度は英語の参考書を開いていました。今となっては懐かしい思い出です。