英論文紹介: 秋田犬と献血

さて、本日は英論文紹介です。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。今月は中々気になる輸血関係の論文がみつからず苦戦していたので、かねてより気になっていた秋田犬と献血に関する話題を取り上げてみることとしました。そのおかげで論文選びと記事の構想を練るのに普段の倍くらい時間がかかり、現在23:45です。

献血ドナーの条件は日本獣医輸血研究会のガイドラインのページに基本的なことがまとめてありますが、そのような情報をもととして各動物病院の方針に合わせた最善のドナープログラムを設計していく必要があります。私も色々な動物病院のホームページへお邪魔しては、どのようなドナープログラムをなされているのかリンクをクリックして勉強させて頂くことが多くあります。その中でも、比較的多くの動物病院のホームページに書かれているのが、秋田犬がドナーとしてNGだということです。もう秋田犬だからダメと理由も言わずに書かれているところもあれば、赤血球のカリウム濃度の特性に基づきお断りと細かく書かれているところも稀にあります。

これはどういうことか。今からそのすべてを書こうとすると丑三つ時を軽く越えるので概略で留めておこうと思いますが、私の考えでは問題点が二つに分解できます。一つ目がカリウムを多く含む製剤を体内に大量かつ速やかに輸注すると心停止をおこすリスクがあること、そして二つ目が秋田犬の赤血球は他の犬種と異なり赤血球内にカリウムを多く含む特性を有する可能性が指摘されていること。すなわち、秋田犬のドナーから献血してもらうと、レシピエントに大量のカリウムが輸血されて致命的な事故につながるのではないかということだと、私は理解しています。でも何となく昔から違和感があります。秋田犬はそれで普通に生きてますからね。

そこで冒頭の論文紹介に戻りましょう。筆者たちは日本人ではなくブラジルの研究者の方なのですが、秋田犬48頭から採血をしてそのカリウム濃度の特性やその他の検査所見の比較をしています。結果、赤血球内のカリウム濃度は2割の秋田犬において高値(34.4mmol/L)であり、8割の秋田犬では一般的な犬種と同様に低値(2.4mmol/L)だったという内容です。この研究結果が日本の秋田犬においても同様な傾向であるとしたら、カリウム濃度の問題だけに関して言えば8割の秋田犬はドナーとして特に問題ないということになります。ドナーのすそ野が広がって素晴らしい結果です。

ところで私の認識が正しければ、人間はその高カリウム系の秋田犬と同様な高カリウム赤血球だったような気がします。不確かですが。なので輸血用血液を保存や加工する過程で溶血が進行してくると上清のカリウム濃度が高くなってくるため、カリウム吸着フィルターを駆使して安全に輸血を行うよう気を付けるそうで。しかしそもそも一般的な輸血量であれば輸血した瞬間にレシピエント体内で希釈を受けたり細胞内にカリウムが取り込まれたり腎臓から排泄したりして、高カリウムが問題になることは多くないそうです。問題になるのは、危機的出血に対する緊急大量輸血であるとか、赤ちゃんへの輸血、腎不全、高カリウム血症の患者さんなど限られた状況とのことで。

そうなると、2割の高カリウム系の秋田犬であったとしても、新鮮血輸血であれば溶血によりカリウムが漏出してくる恐れは少ないはずですし、保存血輸血であっても一般的な輸血量、輸血速度であれば問題がないか、あるいは少しお値段が高いフィルターですがカリウム吸着フィルターを使用すれば安全に輸血ができるのではないかという気がしてなりません。まぁ高カリウム系の赤血球を有する秋田犬の赤血球は赤血球の体内寿命が短いとか溶血しやすいとか言われていたり、話は少しそれますが秋田犬は血小板が少ない個体もいるのでそういう要因も加味されてドナーとして外されることが多いのでしょうか。個人的には、毛深くてバリカンさせてもらうにしても採血が難しそうとか、当院のような猫の額ほどの広さの病院だと身体が大きすぎて診察台に乗れないかもしれないという点も気になりますが。

以上です。秋田犬と献血に関しては調べれば調べるほどに謎が深まるばかりです。こちらも、只今00:35をこえて夜が深まる一方なのでこの辺で失礼させて頂きます。明日も皆様頑張っていきましょう。