英論文紹介: 猫の新しい血液型-続報2

冬将軍到来ですね。皆さまご存じのこの冬将軍という言葉、フランスの皇帝ナポレオン率いるフランス軍がロシア遠征を行った際、ロシアの冬の厳しい寒さも影響してフランス軍が撤退に追い込まれたことに由来しているそうで。当時のイギリスの風刺画で「General Frost」と書かれていたものが巡り巡って日本だと冬将軍、と翻訳されたようです。そんなに歴史ある単語だったとはつゆ知らず。さて、先月宣言した通り、今月も猫の新しい血液型であるFeline erythrocyte antigen(FEA)に関する研究の続報です。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。

先月紹介したFEA1に関しては、輸血後に抗FEA1抗体が産生され、そしてその抗体がIgMクラスのものであることから、FEA1抗原はA/Bシステムによらない急性溶血性輸血反応を引き起こす可能性のある抗原として警戒する必要があるとまとめていました。一方、今回注目しているのはFEA4なのですが、なぜFEA2とFEA3が飛ばされているんだろう…と不思議ですよね。その理由は論文内にひとことだけ書いてあったので少し自信がないですが、出現頻度の違いであるように読み取りました。2021年のFEAに関するはじめての報告を出した際、FEA4によるクロスマッチ不適合が多かったそうです。

そこで、今回もFEA4陰性猫にFEA4陽性血を輸血して、その後は経時的にクロスマッチを行って抗FEA4抗体の産生有無をチェックするという同じ手法を用いて研究を行っています。結果、不思議なことにFEA4に対する抗体が産生されることはなく、何なら複数回輸血してみたいですがそれでも抗体は産生されなかったようでした。FEA4に対して自然抗体を持っている猫がいるにもかかわらず、FEA4を輸血しても抗体産生がなされないという謎です。その考察は本文中でもあまり明言されておらず。抗原性が低かったり抗原の発現量が少なかったりして免疫システムから相手にされなかったりするのでしょうか。はたまた抗体産生はなされていてもIgMクラスの抗体ではなかったりして通常の生食法のクロスマッチの感度では検出されなかったのでしょうか。個人的には後者の可能性を考えているのですが、理由が気になりますねぇ。

そして今回の研究で輸血を複数回行っている際にFEA6という新たな抗原を発見しています。それこそFEA6に対してはIgMクラスの抗体が産生されて急性溶血性輸血反応を引き起こすリスクがあるので、今後の研究が期待されると新たな可能性について言及していますが、しれっと本文にだけ見過ごせないLimitationが書き添えてありました。それは、この抗FEA6抗体を産生した猫=今後FEA6抗原を捜索する重要な鍵となるキーパーソンならぬキーキャットがこのタイミングで里親さんのところへ貰われていかれたと。是非ともその子は今後の猫生を幸せに過ごして頂きたいところですが、できることならこの筆者たちの所属するモントリオール大学からすぐそばに住んでもらって、いざ必要なときにはドナーとして血液を提供してもらえると助かりますがはたして、、、

Discussionにわざわざそのことを書いているくらいなので結構遠方なおうちに貰われていったのかなぁ。以前研究されていたMikも抗体が消失してしまってロストテクノロジーとなりましたが、このFEA6も永久欠番となりそうな雰囲気が無きにしも非ずですね。先月話していたMarie-Claude Blais先生の腕の見せ所でありますので、続報に期待しましょう。今年の英論文紹介は以上で終了です。来年もどうぞよろしくお願い致します。