英論文紹介: 猫の新しい血液型-続報3

気付けば5月も終わりを迎える頃となり、だいぶ春の予防シーズンが落ち着いたように思います。春の予防シーズンとは、狂犬病の予防接種やフィラリア、ノミ、ダニ予防薬の処方で日本全国津々浦々の動物病院が最も混雑する時期のことです。当院とは比べ物にならないほど多忙を極める動物病院がほとんどなのですが、当院も当院なりに少し混雑してしまい、色々なところで皆様にご不便をおかけして大変恐縮です。この場を借りてお詫び申し上げます。それでは、今月の英論文紹介をしていきたいと思います。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。

今回も皆様ご存じ、カナダはモントリオール大学のMarie-Claude Blais先生の研究チームからの続報を紹介しています。話は少し前にさかのぼりますが、「猫の新しい血液型-続報2」において、FEA4という血液型について色々調べていたら、うっかりFEA6という新しい抗原が見つかって、しかもFEA6は2回目以降の輸血において急性溶血性輸血反応を引き起こすかもしれない、という発見は記憶に新しいことと思います。そこで、今回はFEA4のオマケでFEA6を調べたわけではなく、FEA6を中心にして研究しなおしましたという報告になります。

結果、FEA6はやはりFEA1-5とは異なる抗原であり、今回の研究ではA型猫の67%がFEA6陽性という高い発現率を示していたそうです。一方、自然発生性のFEA6に対する同種抗体はみられなかったとのことで。これはすなわちどういうことかと言うと、犬のDEA1.1に近い血液型と言えるかもしれません。つまり、犬のDEA1.1に対してあらかじめ同種抗体を有している犬はいませんが、DEA1.1陰性犬にDEA1.1陽性血を2回以上輸血すると2回目以降は急性溶血性輸血反応を引き起こします。

これと同じように、猫のFEA6について異型輸血を行ったとしても、初回は大丈夫ですが2回目以降は急性溶血性輸血反応を引き起こす可能性があるという訳です。A型猫同士の輸血だからと言って安心して2回目の輸血を行ったところ、実はFEA6が不適合となってしまうかもしれないことですね。改めて、輸血前検査は血液型判定とクロスマッチ試験と、出来る限り両方を行わなければいけないということが痛感される研究結果と言えます。FEAに関してはコマーシャルベースで検査できる血液型ではありませんが、猫の輸血前にはA/Bシステムに基づく血液型判定とクロスマッチ試験、どちらもやれる範囲のことを落ち着いて頑張っていきましょう。

以上です。しかしこのBlais先生の研究チームは素晴らしいですね。獣医学領域において、年間1報のペースで新しい血液型の情報がアップデートできるなんてホントに凄いと思います。しかもここ3報くらいにおいては、ボスであるBlais先生以外、全員著者が異なるのです。全員って凄い。大学院生やポスドクの人が研究しているんだとしたら、お互い協力関係にあるでしょうから共著に同じ名前の方が挙がってきてもおかしくないように思うのですが。一体どういうことなのでしょう。他にも、前回の記事に書きましたが、抗FEA6抗体を産生した猫=FEA6抗原を捜索する重要な鍵となるキーキャットが里親さんのところへ貰われていってしまったのでどうしたものかとLimitationに記載されていたにも関わらず、このハイペース。素晴らしい。引き続き、Blais先生の活躍には目が離せません。続報が入り次第、こちらにもお知らせしていきたいと思います。