顕微鏡写真: 犬の好塩基性斑点

今日はたまたまマイナーな赤芽球の写真が撮れたので紹介したいと思います。好塩基性斑点です。早速写真をご覧頂きましょう。

イヌ血液塗抹-好塩基性斑点、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

この赤芽球の細胞質にみられる複数の細かい青い点々が好塩基性斑点です。これは赤血球造血の過程でトラブルが起きた際、本来消失していくはずのリボソームRNAが細胞質内に残ってしまって凝集したものと言われています。今回お示しした写真は有核の赤芽球の中に好塩基性斑点がみられていますが、病態によっては成熟赤血球にもみられます。

国家試験的に有名な病態としては鉛中毒の症例にみられると言われていますが、鉛中毒ってどんなときに起こるのかあまりピンときたことがありませんでした。鉛と言えば鉛玉、いわゆる銃弾にも含まれているので、アメリカだとガンショット(銃創)でもなるんだろうかと一瞬思いましたが、鉛中毒どころではなく体内に残っているのであれば速やかに摘出しないと命にかかわりそうなのでちょっと違いそうです。

そこで調べてみると、昔はペンキやガソリンに含まれていたようですが、今でも釣りの重りやおもちゃ、カーテンのおもし、車のバッテリーなど意外と身近なところで鉛って使われているんですね。それらの誤食を通じて鉛中毒になるようです。そう言えば小学生の時に釣りの重りを溶かしてクッキーの型に流し込んでペンダントみたいに整形して、夏休みの自由研究としたことを思い出しました。懐かしいけど今思えば小学生の頃に割と危険な工作してますね。鉛中毒にならなくてよかったというか大火傷しなくてよかった。

さておき、再生性貧血など造血を頑張っているときや正常な造血ができないときにも好塩基性斑点はみられることがあるので、鉛中毒に特異的な所見という訳ではありません。今回の写真も勿論鉛中毒の症例ではなく、造血がうまくできない貧血症例のものでした。似たような好塩基性の封入体と言えば核の遺残物であるハウエルジョリー小体が挙げられますが、ハウエルジョリー小体は一個の赤血球に基本は一個だけですし、好塩基性斑点と比較すると比較的立派な封入体なので区別は簡単かもしれません。

好塩基性斑点は特殊な染色をすることなく普通の染色で観察可能です。血液塗抹を熱心に観察しているとメタルスライムというよりはぐれメタルかそれ以上くらいのまれな頻度でひょっこり現れてくるので、ついつい目を引かれます。ぜひ皆様も貧血症例の血液塗抹ではぐれメタルならぬ好塩基性斑点を探してみましょう。勿論、成熟赤血球に沢山出ていたら鉛誤食の可能性について問診することをゆめゆめお忘れなきように。