顕微鏡写真: 犬と猫のバー小体
今日は(今日も?)臨床的意義のない血液塗抹の所見を紹介したいと思います。好中球のバー小体についてです。これは雌犬や雌猫の好中球に散見される所見でして、人間の女性にも認められます。さっそく写真をご覧頂きましょう。

この好中球の核から飛び出た太鼓のばち(Drumstick)みたいなものがバー小体です。これは雌の胚細胞発生時に不活化されたX染色体が凝縮されたものとされています。つまり、雄がX染色体を1本しか持っていないのに対して、雌はX染色体を2本持っているので遺伝情報量が過剰にならないようにバランスを取っているということです。これをライオニゼーション(Lyonization)と言います。
少し話は脱線しますが、このX染色体の不活化の結果が目に見えてわかる例が猫の毛色です。猫の毛を赤茶色や黒色にする遺伝情報はX染色体上にあり、父親あるいは母親由来のどちらのX染色体が働くかによって赤茶と黒の模様の入り方が決まります。サビ猫はその赤茶と黒の入り混じった柄の猫なので、あぁ、この部分は父親由来、こっちは母親由来のX染色体か、などと感じられるわけですね。この点、鋭い方ならサビ猫はほとんどが雌猫であるということもお分かりかもしれません。雄猫だとX染色体を一本しか持っていませんので、赤茶と黒が入り混じる=サビ柄になることは難しい訳です。
閑話休題。以前、この好中球のバー小体についてとある先生に嬉々としてお話したところ、飲み会くらいでしか役立たない知識だねって笑われました。たしかに。病気と関係ないですからね。でもこの記事を書くにあたって法医学教室の方のブログを拝見したのですが、現代のようにDNA判定が盛んに行われるようになる前は、このバー小体を利用してご遺体の性別判定をしていた時代もあったそうです。コナンくんがバー小体をみつけて事件の手掛かりをつかむ回もそのうち来るのかもしれませんね。

先ほどのブログの方はその日の記事をこう締めくくっていました。「この"ドラムスティック"には遺伝情報だけでなくロマンが詰まっています」。かっこいい。僕も今度からそういう風にバー小体のことを紹介していきたいと思います。