英論文紹介: 輸血の4時間ルール
世の中には色んなルールがあります。赤信号は渡らないとか。ドラえもんの世界なら歴史を変えてはいけないとか。時空警察に逮捕されてしまいますからね。未来から来たドラえもんがのび太に接触しているという点で歴史改変していそうな気もしますがそれはさておき。輸血においても様々なルールがあるのですが、たとえば今回紹介する文献で取り上げられている4時間ルールがあります。これは輸血を4時間以内に終わらせましょうというもので、私が更新している日本獣医輸血研究会のサイトもあわせてご覧下さい。
なぜ4時間以内に輸血を終わらせなければいけないかと言うと、輸血されている間に血液製剤は室温にさらされているので、もし細菌汚染されていたら細菌が増殖してしまってアブナイという訳です。あとは、血小板を除く血液製剤は基本的に低温保存されることが前提なので、室温に長いこと放置されていたらその有効性が担保しづらいということも挙げられます。
かと言って、じゃあ4時間もかけずに急速投与すれば良いじゃんという訳にもいきません。通常、輸血開始後30分程度は輸血副反応を警戒して緩徐に投与しなければいけませんし、その後も症例の様子を観察しながら投与する必要があります。また、心機能が低下している症例には、なおさら様子をみながらゆっくり投与しないと輸血関連循環過負荷(TACO)という病態に陥って急性の呼吸困難を生じます。
輸血副反応に注意しながらゆっくり投与していきたい思いとは裏腹に、輸血の安全性と有効性を確保するために4時間以内に終わらせなければならないというタイムリミットがある訳です。心機能不全の症例に対しては、この4時間ルール結構困ります。どう考えたって4時間以内に必要量が輸血できない計算となることがしばしばあります。
でもこの4時間ルール本当に必要なの?という動きが医学の方でも獣医学の方でも出てきています。そもそもこのルールは70年前くらいからあるようで、その当時の赤血球輸血に関する研究で輸血は4時間以内に終わらせようとなったそうなのです。70年前って戦後すぐの話ですからね、当時と比較すると血液の保存液など色々な技術革新がありましたから、なんだか現状に即していない気がぷんぷんします。
そこで今回紹介する文献の筆者たちは、犬の新鮮凍結血漿を12時間かけて輸血したらどうなるんだろうと研究されました。結果、一番懸念されていた細菌が増殖してきた訳でもなく、血漿輸血としての有効性も維持できていたというデータが得られたのです。4時間ルールどころか12時間OKの大躍進です。犬の心不全症例に血漿輸血を行う必要がある場合、無理して4時間以内に終わらせなくても良いかもしれないという大変心強いエビデンスとなりました。
今回の論文は血漿輸血に関するものでしたが、赤血球輸血に関しても細菌増殖リスクについては少し外挿できるところもあるかもしれません。ただ、赤血球の場合は血漿よりも細菌増殖リスクが感覚的に高そうな気もしますし、室温放置にあたり溶血してこないかという心配もありますので、すべてを鵜呑みにできないところもあります。今後の関連研究の動向が期待されますね。
論文紹介は以上です。ルールは一度作ったら終わりという訳ではなく定期的に見直す必要があります。昔からあるルールを疑問に思った人が研究を行って科学的根拠を生み出し、それらのデータを基に有識者の方々が話し合ってルールを見直していきます。これは結構大変な作業で軽く数年はかかります。この支配からの卒業だって思い始めてから、正しいものは何なのか、それがこの胸に解るまで。僕が僕であるために勝ち続けなきゃならないんです。数年。←ルールからの脱却と考えながら記事を考えていたら尾崎豊が頭に浮かんできて仕方なかったので、つい。分かる方には分かりますね(笑