顕微鏡写真: 犬の赤血球連銭形成
今日のテーマは赤血球の連銭形成です。レンセン形成と読みます。これは赤血球を銭のように見立てて、その銭が複数個数珠つなぎに連なっているような様子のことです。レンセン、とパソコンで入力すると間違いなく「連戦」しか出てこないので、一般的な用語ではない気はしますが、これに振り仮名がふられていることをみたことが無い不思議。皆さん初見で読めるのでしょうかね。ではこちらの画像をご覧ください。

赤血球同士が連なっていて、マリオの砂漠の面に出てくるサボテンの姿をした敵キャラ、サンボみたいです。
本来、赤血球の表面はマイナスに帯電していまして、赤血球同士はそのマイナスの帯電が反発しあうので連なることはありません。ちなみに、液体中に分散している粒子の表面に発生している電位のことを物理学的にはゼータ電位と言うそうです。英語で言うとZeta potential。なんだかカッコいい響きです。
生物学的にはゼータ電位でもZeta potentialでもマイナスの帯電でも、まぁどれでも良いのですが、とにかく本来反発しあっているその電位が何かしらの影響で低下すると、赤血球同士の距離が近づく=くっつくようになります。どんなときにその電位に変化が起きるかというと、高グロブリン血症が挙げられます。
高グロブリン血症は代表的には免疫グロブリン(γグロブリン)の増加を示唆することが多いですが、今回記事を書くまで私も知らなかったですが、フィブリノゲンもβグロブリン分画に含まれるらしいのでフィブリノゲンが高いことも高グロブリン血症と言えば高グロブリン血症みたいです(やや自信ありません)。一般的には高グロブリン血症と言えば免疫グロブリンの増加のことですね。
免疫グロブリンが増加する病態は大きく分けて二種類で、反応性増加と腫瘍性増加です。反応性増加とは炎症の結果、免疫グロブリンが増加している病態で、電気泳動的にはポリクローナルガンモパシーとなります。腫瘍性増加とはB細胞系のリンパ球や形質細胞が腫瘍性増殖した結果、無秩序に免疫グロブリンが増加している病態で、電気泳動的にはモノクローナルガンモパシーとなります。難しい言葉の話ばかりしてしまったので、別の症例の写真もお示ししておきます。こちらの写真は矢印で示したものの、視野一面に連銭形成していますね。

赤血球同士がくっつくと言えば赤血球自己凝集がありますが、あちらは主に免疫介在性溶血性貧血のときなど免疫グロブリンにより赤血球同士が立体的にくっつけられたものです。連銭形成のように一方向に連なっていくのではなく、もっとぐちゃっと三次元的に大きな塊となることが多いです。ちょっと今からこの自己凝集の話を始めると日付が変わってしまいそうになるので、勝手ながらまた別の機会に取り上げさせて頂きます。
さて、今回の記事で最も言いたかったことを最後に記しておきます。この赤血球連銭形成、漢字でも読み方が少し難しいように私は思うのですが、英語にするともっと絶望的です。英語で言うと「Rouleaux」です。どうです?読めました?ロウレアウクス?ロレックス?それは時計か。正解は、カタカナだとルーローズっていう感じです。rü-ˈlōzって書かれてましたから、アクセントは前半に来る感じですかね。
この単語、調べた限りではフランス語が起源ぽいんですよねぇ。フランス語だとペンキを塗るローラーとか、トイレットペーパーの巻かれたものとかを指すときに使うらしいです。だから発音があんまり馴染みない感じなのかなぁ、という愚痴で今回は終わりにしたいと思います。共感できる方、募集中です。