英論文紹介: 猫の血液型と新生子溶血

梅雨明けして夏真っ盛りの今日この頃ですが皆様いかがお過ごしでしょうか。私はと言うと変わらず日中は院内に引きこもりの生活を送っているので、外から入ってこられる皆様の熱気から遠巻きに夏を感じている次第です。ですが8月は夏を感じて自律神経を整えるために臨時休診をいくらかいただこうと思っております。ご不便をお掛けして申し訳ございませんが、ホームーページのカレンダーやGoogle検索、Instagramにて診療予定をご確認いただきますようよろしくお願い申し上げます。さて、本日は英論文紹介の日です。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。

今日は新生子溶血に関する話です。新生児、というとヒト限定になるので、新生子、という表現にして今回はネコの新生子溶血についてです。この疾患は医学の方では母体の血液型と胎児の血液型が適合していない場合に起こり、分娩の前に抗体が胎盤を通して胎児の血液に入り、胎児の赤血球を破壊(溶血と言う)します。この溶血反応は胎児がまだ子宮内にいる間に始まって出生後も続き、貧血を引き起こすとされています。主にRh式の血液型不適合の2回目以降の妊娠時に起こるようです。

ここまで調べていてふと違和感を覚えました。獣医の大学で習ったのと何か違うと。獣医学における新生子溶血と言えば、初乳なのです。初乳中に含まれる異型抗体が新生子の腸管から吸収されて、出産後に溶血を引き起こす可能性のある疾患なのです。ネコはヒト同様に規則性抗体を持つので、今回の論文で取り上げられているようにB型の母ネコとA型の父ネコを交配した場合、初乳を飲ませるか否かによって新生子溶血のリスクが変わってくると考えられています。

しかしここでもうひとつ感じた違和感は、ヒトもABO式の血液型に対して規則性抗体があるはずなのに、なぜ初回の妊娠からそれが問題にならないんだろうかと。ヒトでは、上述のように1度目の妊娠・出産でRh感作されたRh陰性の母親が、2度目の妊娠のときに新生児溶血を引き起こすとされているようです。この2つの違和感に対する回答を私なりに色々調べてみた結果、胎盤の構造に違いがあるからだと考えました。

以下、回答(おそらくあっていますが、専門家ではないので少し間違っているところもあるかもしれません、、)

イヌやネコの胎盤は内皮絨毛性胎盤と言われていて、直接母体の血液が胎子の栄養膜細胞と触れ合う構造ではなく、抗体の移行は少量しか起きません。したがって、妊娠中に母体の抗体が胎子の赤血球を攻撃してしまうことは少なく、かわりに初乳に抗体が多く含まれていて移行免疫の要を担っているので、初乳を介して新生子溶血が起こる可能性がある訳です。ちなみに腸管から初乳の抗体を吸収できる期間は出生後24時間以内が目安と言われています。

一方、ヒトの胎盤は血絨毛性胎盤と言われていて、直接母体の血液が胎児の栄養膜細胞と触れ合っており、抗体が胎盤を介して胎児に移行する構造となっています。しかしながら、移行する抗体は主にIgGのようで、抗A、抗B抗体はIgMで分子量が大きいので胎盤から胎児へ移行することはないようです。なるほど。(ヒトの初乳にもIgMは含まれているそうですが、IgAに比べて低濃度であるのと、ヒトは主に胎盤からの移行抗体でまかなわれているので、イヌやネコのように出生直後でも腸管からはそんなに沢山吸収されないのかなと空想しました。)

以上、回答でした。すっかり論文の趣旨からは外れた記事となってしまいましたが、血液型のことを調べていると時折、胎盤の種差問題にぶつかり、何年かに一度胎盤に関する国家試験の知識を引っ張り出してくることになるんですよね。胎盤の種差を通じて生命の神秘が感じられますよねぇ。新生子溶血と言ってもヒトと動物でちょっと異なるメカニズム、今回も記事を書いていて良い勉強になりました。誰かが共感してくれていると嬉しいのですが大変マニアックですね。