顕微鏡写真: 犬と猫の血球貪食像

今日は血球貪食像の紹介です。ところで貪食と書いてドンショクと読みます。これは「貧しい」という漢字に似ていますが、正しくは「貪る(むさぼる)」の方です。分+貝が貧しいで、今+貝が貪るです。むさぼり食う、という何だか勢いを感じる表現です。今となっては貪食という表現が当たり前のように暮らしていますが、調べてみたらこの表現は一般的ではなく生物学の分野でしかほとんど使われない用語のようですね。確かにおにぎりを貪り食うとは言うかもしれませんが、おにぎりを貪食するなんて表現は聞いたことがありません。

ネコ血液塗抹-血球貪食像、対物レンズ100倍、Diff-Quik染色

この貪食という表現は、免疫をつかさどる細胞の一部が食作用を発揮する際に使われる単語です。貪食細胞としては組織球(マクロファージ)が最も有名であり、細菌から身体を守るための生体防御、抗原の取り込みや提示、そして死細胞の除去などの生理的意義を果たしています。血液に関して言えば、3ヶ月程体内を循環して寿命を迎えた赤血球が細網内皮系の中の主に脾臓のマクロファージによって片付けられて、鉄分は次の造血へとリサイクルされていきます。私の認識が間違っていなければ、古くなった血小板や白血球も主に脾臓で片付けられるはずですが、赤血球と比較すると数が少なくなるためか、話題に上がることは多くありません。

イヌ骨髄塗抹-血球貪食像、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色
イヌ骨髄塗抹-血球貪食像、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色

この血球貪食は毎日身体の中でターンオーバーを目的に相当数行われている訳ですが、その勢いが激化してしまうと血球減少症へと向かうことになります。犬や猫だと免疫介在性溶血性貧血や非再生性免疫介在性貧血、免疫介在性血小板減少症、血球貪食症候群などが代表的です。中でも血球貪食症候群では汎血球の貪食像が確認されます。血球貪食像は躍動感があるように感じられて顕微鏡で見かける細胞像の中で好きな方です。しかしその後の治療を考えると苦戦することも少なくなく。今まで何度煮え湯を飲まされたことか。

ネコ脾臓細胞診-血球貪食像、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色

病気になると身体の恒常性が絶妙なバランスによって支えられていることが認識されますね。マクロファージさん、古くなった血球を貪食してくれるのは歓迎ですが、どうぞ秩序を保って貪り食って頂きたい。ところで一体誰が「血球貪食」って言いだしたのだろう。英語のHemophagocytosisにむさぼる、みたいな意味を指す要素が無いので不思議です。確かにお腹いっぱい食べてる感が伝わる細胞像に出くわすことは多いですが。さて、今月は以上です。私も立派な中年なのでメタボリックシンドロームにならないよう、日々節度を持って食事を美味しく貪り食っていきたいと思います。