英論文紹介: 猫の新しい血液型-続報1
すっかり寒くなって参りました。この時期になると診療後にひとりデスクワークをしていると足が冷えてしょうがないですね。でもストーブは11月のうちはまだつけないぞとやせ我慢に勤しんでおります。最近、目ヤニやくしゃみなどの猫風邪症状の相談が非常に増えていますので、皆さまは風邪などひかぬよう暖かくしてお過ごしください。さて、今日は英論文紹介です。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。
今回は猫の新しい血液型、Feline erythrocyte antigen(FEA)に関する研究の続報です。以前、このFEAに関しては2022年の1月に日本獣医輸血研究会のホームページ上で記事にしており、ということはこちらのBlogでも過去ログがあるはずとあさってみましたがありませんでした。それもそのはず。当時はこのホームページどころか当院すらまだ出来上がっていませんでした。開院が2022年の4月でしたからね。1月はようやくテナントが決まった頃だったような。
さて、猫の血液型というとA/Bシステムに基づくものが世界的に有名であり、それは急性溶血性輸血反応の原因抗原となることや、犬とは異なり自然抗体を有することが多いから、というのは皆さまご存じのことと思われます。でも実際にはそれ以外の血液型が存在している可能性は直感的にも、経験的にも感じられるところです。つまりA/Bシステムに基づく血液型はマッチさせているはずなのにクロスマッチが不適合になったり、実際に溶血性輸血反応を経験したことのある方もいらっしゃると思います。
そこで筆者たちは、2021年に輸血歴のないA型猫258頭を用いてクロスマッチを1228回行い、クロスマッチが不適合となった18頭(7%)の血漿の一部を用いて5種類のFEAを突き止めることに成功しました。まさに執念の賜物です。そして今回紹介している論文では、そのうちFEA1抗原に関する続報であり、FEA1陰性猫にFEA1陽性血を輸血して人為的に抗FEA1抗体が産生されるのかどうかを調べています。
結果、急性溶血性輸血反応を引き起こすIgMクラスの抗体が産生されることが明らかになり、FEA1抗原はA/Bシステムによらない急性溶血性輸血反応を引き起こす可能性のある抗原として警戒する必要があるとまとめています。今回は人為的に抗FEA1抗体を産生させていますが、先の論文で抗FEA1抗体は元々自然抗体として有している猫も報告されています。初回輸血時はA/Bシステムに基づく血液型判定だけで、クロスマッチを省略して輸血を行うというスタンスの動物病院も北米にはあるようなので、改めて初回輸血時のクロスマッチの重要性が認識されたという訳です。勉強になります。
実は来月もこのFEA抗原シリーズの続報を紹介させて頂く予定なのですが、この一連の論文のいずれにも名を連ねているのはMarie-Claude Blais先生というカナダのモントリオール大学の方でした。おそらく彼女がコレスポンディングオーサー的な立場なのかと思います。ネット上で略歴を拝見すると私より10歳くらい年上なのかなと思うまだまだ若そうな先生で、ペンシルバニア大学の輸血で有名なUrs Giger先生に師事されていたそうです。このまま獣医療における輸血や血液型に関する研究を牽引し続けてもらいたいですね。いつか北米の学会へ行って直接お話を聞いてみたいものです。他にも同じくカナダのゲルフ大学のAnthony Abrams-Ogg先生は獣医療の血小板輸血の大家なのですが、調べてみたらもう70歳くらいのご様子でさすがに現役を退いていそうで残念です。。。
と言うことで今月は以上ですが、来月もFEAの続報をお送り致します。どうぞお楽しみに。