英論文紹介: 献血ドナー猫の合併症に関する大規模研究
季節の変わり目なせいか寒暖差が激しい日々が続いておりますが、皆さまお変わりなくお過ごしでしょうか。人間もそうですが、犬や猫にも季節の変わり目はかなりストレスがかかりますので、最近は胃腸症状や皮膚症状で相談を頂くことが多くなっています。しっかり栄養と休息を取って大きく体調を崩すことなく冬へ備えていきましょう。さて、今月も英論文紹介をしていきたいと思います。私が更新している日本獣医輸血研究会のサイトもあわせてご覧下さい。
先月の犬の急性輸血反応の報告に続き、今月も欧米の数の力に圧倒されっぱなしの論文が続きます。今回は猫の献血時の合併症に関する報告なのですが、献血採血数がなんと29,201件です。わずか5年のうちに7,812頭の猫から3万件弱の献血が行われたようでして。しかもポルトガルの動物用血液バンク1施設の実績だと思われます。猫だけで年間6,000件の献血採血という計算になりますので、週休二日制で年間250稼働日あるとしたら一日に24件。日本ばりに9-18時で昼休憩1時間の8時間勤務だとしたら毎時3件、20分に1件のペースで献血採血している計算です。凄い。
その圧倒的献血採血件数の中で、合併症の発生頻度は0.29%と非常に低頻度だったようです。血圧低下や頻呼吸など心肺機能にまつわるものが0.08%、次に多いのは採血後に他の猫を威嚇したり粗相をするなど行動異常に該当するものが0.06%だったそうで、いずれも100件に1件未満の合併症なのでかなり安全性は高く献血採血を行っていることが窺われます。その安全性を担保できている理由の一つとして、筆者たちは猫の献血採血時の鎮静処置を挙げています。鎮静とは、投薬により意識レベルを低下させることであり、人間でも最近は内視鏡検査時によく使われるようになっていると思います。処置中の苦痛軽減、精神的不安軽減、安静維持のために行うとお医者さんの解説をみかけましたが、まさに猫に行う鎮静もそのような目的で行われます。
私は前職で犬や猫に沢山内視鏡検査をしてきて(もちろん動物は全身麻酔下です)安全な内視鏡操作技術や綺麗な画像の描出、質の高い生検材料の提出へのこだわりがありました。だからいつか自分が内視鏡検査をしてもらうときには、お医者さんがどのような内視鏡操作テクニックを駆使しているのか無鎮静で嗚咽をこらえながら凝視してみたいと思う節もありますが、それは特殊なケースであり。私が猫だったら献血採血時に絶対鎮静してもらいたいです。仮に具合の悪い仲間を助けたいという互助精神のある猫だったとしても、輸血療法とか献血採血について身をもって勉強してみたいという私のような猫はいないと思いますので、可能ならば気持ちよくボーっとしているかうたた寝している間に終わらせてほしい。この論文の筆者たちもそう言った?観点と、鎮静下採血だったからこそ安全に献血採血を行うことが出来たのではと数値を示して考察しています。
私も犬の献血採血に関しては本人のキャラクター次第では鎮静せずに行うこともありますが、猫の献血採血時は基本的に鎮静をお願いしています。しかしながら、何といっても圧倒的な件数ですよね。1施設で年間6,000件の猫の献血採血。ホームページによればDonationチームは13人のメンバー紹介がなされていましたので、その全員が猫の採血をするのであれば一人あたり年間約450件。週休二日制で年間250稼働日あるとしたら、一日に2件弱。日本ばりに9-18時で昼休憩1時間の8時間勤務だとしたら朝出社して1件採血、そして昼ご飯を食べ終わったらもう一件採血をする計算…あれ、意外とホワイト企業ですね。もっと少ない人手で神業の採血技術を持った剛勇無双の戦士が働くブラック企業のように感じていましたが...論文の中でも動物愛護の精神をかなり謳っていましたし、ポルトガル、良い国ですね。機会があったら是非見学に行ってみたいと思いました。以上です。来月も英論文紹介を宜しくお願い致します。