顕微鏡写真: 犬のハインツ小体

そろそろ、この顕微鏡写真シリーズは同じテーマでしれっと気分も新たに再投稿してしまわないか不安になってきました。これまでこのカテゴリーで16件を投稿し、そのうち15件が血液塗抹で1件は皆さんよく検索サイトでたどり着いて下さるノミの写真です。ちなみに15件の血液塗抹のうち、8件も赤血球を紹介していまして、今回も赤血球の話題で恐縮です。ハインツ小体です。

ハインツと言えば一般的にはトマトケチャップで有名なメーカーです。お洒落なハンバーガー屋さんに例の「逆さボトル」が置いてあるイメージですよね。カゴメのトマトケチャップとはまた違った味わいで良いなと思うのですが、あの逆さボトルは冷蔵庫内で中々に幅を取るので個人的には手を出しづらいなと思っていました。ところが、気付いたらハインツのトマトケチャップにパウチタイプのものが出ておりまして驚きました。現在、大変スリムに家の冷蔵庫内に収納されており、日々美味しくいただいております。ハインツさんありがとう。

さて、トマトケチャップのハインツは1869年にアメリカ人のヘンリー・J・ハインツさんが25歳の時に創設した会社のようですが、今回ご紹介するハインツ小体は1890年にドイツ人のロバート・ハインツさんが発見した赤血球の封入体です。ちなみに、奇しくも同じ25歳の時に発見されたそうです。すごい偶然。

ハインツ小体は、ヘモグロビンのSH基(スルフヒドリル基、チオール基とも言う)が酸化条件下でS-S結合(ジスルフィド結合)を形成し立体構造が変形することで生じます…自分でも何を喋っているか難しくてよく分からないですが、要は赤血球のヘモグロビンが酸化障害を受けてできるのがハインツ小体です。正しくはニューメチレンブルー染色などの超生体染色で染め分けて観察するものですが、大きくて赤血球から出っ張っているものはいつものディフクイック染色やライトギムザ染色でも観察できます。

イヌ末梢血-ハインツ小体、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色

この、でべそみたいな部分がハインツ小体です。ハインツ小体を形成した赤血球は脾臓で捕捉されてマクロファージに貪食される対象となったり、溶血しやすかったりするため、過剰にハインツ小体が増えた場合は溶血性貧血を呈します。血漿が赤くなったり、赤色尿(血色素尿)が出たりします。ただし猫では、上述のSH基が8個も活性状態にあるそうで(他の動物は2個以下)、先ほどのニューメチレンブルー染色を行うと健康でも5-10%程度の赤血球にハインツ小体が認められると言われています。

ハインツ小体と同様な酸化障害の変化として、偏心赤血球(Eccentrocytes、エキセントロサイト)というものもあります。ヘモグロビンが酸化障害により偏ったところに存在し、ヘモグロビンが無いところは赤血球膜が接着しているので透き通って見えます。ハインツ小体が増加しているようなときは、このエキセントロサイトも同様に増加していることがあります。以下に画像をお示ししますが、少し見づらくてすいません。後日良いものが見つかったら差し替えておきます。

イヌ末梢血-偏心赤血球、対物レンズ100倍、Wright-Giemsa染色

話がだいぶ回りくどくなりましたが、ハインツ小体は犬の玉ねぎ中毒で有名です。犬が生でも加熱しても玉ねぎやニンニク、長ネギ、ニラ、ラッキョウなどを食べてはいけないというのは、それらの食材に含まれる有機チオ硫酸化合物がこのハインツ小体性の溶血性貧血を呈するからです。人間はこの有機チオ硫酸化合物を代謝する酵素を持っているから大丈夫?、酵素を上回るほどに食べ過ぎると貧血を起こすかも?、とか記述を見かけましたが、調べてみても実際のところはよく分かりませんでした。とにかく犬や猫に良くないことは確かです。

玉ねぎ中毒は用量依存性が示唆されていますので小型犬は特に注意が必要で、私も過去に肉まんを少し盗み食いして貧血を呈していた小型犬に遭遇したこともあれば、カレーを大量に盗み食いしても全然平気だった大型犬に遭遇したこともあります。皆さま盗み食いには気を付けましょう…懺悔するとカレーを盗食したのはうちで飼っていた愛犬です。貧血は起こしませんでしたがしっかり胃腸炎を引き起こしていました…大変申し訳ございません。。そんな私を反面教師にして、愛犬愛猫がハインツ小体性貧血にならないよう日々健やかにお過ごし下さい。そしてスーパーでパウチタイプのハインツケチャップを見かけたら、便利なのでぜひ買ってみて下さい。その際はハインツ小体に思いを馳せることをゆめゆめお忘れなきように…