顕微鏡写真: 猫のバスケット細胞
先日、新宿を中心に展開されている大きな動物病院グループに縁あってご招待頂き、診察終了後の20:30から2時間ほど、血液塗抹に関するセミナーを担当させて頂きました。当院と違って大変お忙しい病院で働かれている獣医師や愛玩動物看護師の皆さんが、お疲れのところ総勢40名以上もご参加頂き、身の引き締まる思いでした。
今回はPowerPointを用いた普通のセミナーでしたが、血液塗抹は、本当はディスカッション顕微鏡を用いて一緒に鏡検するのが最も勉強になるように思います。今の時代なら顕微鏡をパソコンと接続し、それをZoomなどのWeb会議システムでつないで遠隔ディスカッションするのが効率的かもしれませんね。病理の世界はバーチャルスライドが盛んに用いられていて、あれもカッコいいですよね。
さて、今日紹介するのはバスケット細胞です。細胞、と言ってもこれは基本的には標本作成時のアーティファクト(人工産物)であり、白血球の細胞と核が壊れて核が丸く籠のように広がったものです。健康な犬や猫の血液塗抹を観察していても少数みられますし、人間の方では白血球をカウントしていく中で2%以内くらいのバスケット細胞の出現は正常としても良いようです。
ただ、バスケット細胞の数があまりに多い場合は理由を考える必要もあり、リンパ球系腫瘍など腫瘍細胞は壊れやすいと言われています。その場合はバスケット細胞が出にくい血液塗抹の厚めなところを観察したり、圧挫伸展法(なんだそれ、ですよね(笑 引きガラス法ではなく、あわせガラス法のことです。)で血液量を少し多めにして標本を作製すると、細胞を壊さず観察できる可能性が高まります。
ところでこのバスケット細胞、獣医学ではバスケット細胞(Basket cell)と呼ばれていることが多いように思いますが、その他にもSmudge cellという記載も時折見かけます。汚れとかシミとかを指す英単語のようですね。まぁ、確かにそういう風に見えないこともないかもしれませんね。
しかし待って下さい、医学ではこの細胞のことを「Gumprecht shadows(グンプレヒトの核影)」と呼ぶそうです。知らなかったのですが、かっこいい…英語でも日本語でもかっこいいので思わずGoogle検索してしまいました。グンプレヒト先生は19世紀頃に活躍されていたドイツの内科医のようです。もう明日から私は血液塗抹でバスケット細胞をみかけたら、「バスケ…いや、Gumprecht shadowsが目立つな…」と知ったような口を利きたくてうずうずしちゃいます。皆さんもご一緒にどうですか?←ダメなセミナー講師ですいません、またよければ呼んで下さい(笑