英論文紹介: あらためて猫のAB型について

あけましておめでとうございます。とは言えまもなく2023年が一ヶ月過ぎようとしておりますが。。安定の月末更新で行きたいと思います。今年も精進して参りますので、せがわ動物病院をどうぞよろしくお願い致します。

本日は月の初回の更新なので英論文紹介です。猫の血液型に関する論文の紹介になります。日本獣医輸血研究会の記事も良ければご参照下さい。人間の血液型同様に、犬や猫にも血液型というものが存在しています。人間ですと、皆様ご存じのABO式に基づく血液型分類、すなわちA型、B型、AB型、そしてO型が有名です。血液型性格診断とか好きな方多いですよね。ちなみに私はA型です。よくA型っぽいと言われますが、血液の専門家のはしくれとしては、血液型で性格が決められているなんで眉唾物じゃないかなぁと思っています。

犬の場合には、Dog erythrocyte antigen(DEA: 犬赤血球抗原)1.1型の陽性、陰性というものが代表的です。突然単語が難しくなりますね。一方、猫は人間と同じようなABシステムによる分類なのですが、O型というものは存在しません。すなわち、A型、B型、AB型の三種類で、多くの猫がA型です。しかしながら、人間のA型はN-アセチルガラクトサミン、猫のA型はN-グリコリルノイラミン酸という物質が赤血球表面に発現しており、それぞれ別の物質です。B型も同様に異なるので、単語として「A型」「B型」という風に読んでいるだけと私は理解しております。だから猫の多くはA型だからみんな几帳面で真面目なんだな、なるほど…という訳ではありません。

今回ご紹介している論文は、そんな猫の血液型の中で、AB型に着目した研究報告です。1996年に報告された研究なので今から27年も昔の話となりますが、現在でもその理論は受け入れられているので、素晴らしい研究ですね。上述したように猫の多くはA型なのですが、一部にB型の猫が存在しておりまして、A型が90%くらい、B型が10%くらいといった塩梅でしょうか。

ではAB型はというと、なんと遭遇頻度が0-1%で報告されていることが多いです。今回紹介した論文でも調べた猫9,239頭中の13頭(0.14%)であり、メタルスライム級に稀少な血液型です。ただし、これは品種や地域に大きく依存するところもあり、たとえばラグドールを調べたイタリアの報告では、18%がAB型だったとするものもあります。そんなに沢山メタルスライムに出会えるなんてわくわくしますね。

さて、この猫のAB型、何をあらためて紹介したかったかと言うと、その遺伝形式についてです。先ほどもお伝えしたように、言葉は人間と同じようにA型、B型、AB型と言いますが、物質も遺伝形式も異なるものです。人間のA型は、遺伝子型で言うとA/A、A/Oがあります。すなわち、お母さん・お父さんがA型、あるいはお母さんがA型でお父さんがO型、あるいはその逆ということです。

ところが猫のA型は、A/A、A/B、A/ABの遺伝子型からなるのです。だからお母さんがA型でお父さんもA型なのに、生まれた子猫がB型?!なんていうこともありえるのです。人間だったら家族会議ものですが、遺伝子型A/B(A型)のお母さん・お父さんからB/B(B型)の子猫が生まれたということです。

大変勘の鋭い方はお気付きかもしれませんが、対立遺伝子の中に「AB」というものをしれっと記載させて頂きました。人間ではAB型は遺伝子型A/Bによるものなので、「AB」という対立遺伝子は存在しません。しかし猫の場合、AB型はAB/AB、AB/Bの遺伝子型からなるのです。区別しやすく「C」という対立遺伝子の記号を用いて、AB型のことをC型と報告している論文もありましたが、A型抗原とB型抗原の両方を発現している、という意味では確かにAB型なんですよね。実に複雑です。せめて、人間の血液型と混同しないようにX型、Y型、XY型、とかにしたらどうだったんでしょうね。でもそこは性染色体と被ってくるか…難しい。

ちなみに、さらっと書いておくと猫のB型は遺伝子型B/Bのみからなります。それぞれの対立遺伝子はA>AB>Bの順番に優性(今は顕性って言うそうですね)で遺伝します。だからA型の猫が多いという訳なんですよね。でも少し不思議なのが、そしたらB型よりAB型の方が多いのでは?と思うんですよね。AB/ABとAB/Bの遺伝子型の猫がAB型になるわけですからね。なんか多そうです。いや、でも待って下さい。確か高校生物の授業でハーディ・ワインベルグの法則というのを習ったような。

…有性生殖を行う種において十分大きな個体群の遺伝子プールからランダムに配偶子を生成して次世代を構成するとき、対立遺伝子および遺伝子型の頻度は一定に保たれる(Wikipediaより)…

Wikipediaさんの説明はいつだって難解です(笑) 要は猫のAB型の対立遺伝子の遺伝子頻度がそもそも少ないからAB型は稀なんだ、っていうことで結論付けられるんでしょうか。だれか、有識者の方、お知恵を。。。

以上です。猫の血液型はたいていA型だろうと油断をしているときに、B型やAB型に遭遇すると一瞬頭が混乱して理解が追いつかないときがありますよね。血液型判定キットを二度見してしまいます。だから今回の論文は個人的にとても良い勉強になりました。猫の血液型と性格診断、みたいなキャッチーな話を期待されていた方がいらしたら、ご期待に沿えず大変申し訳ございません。真面目な話が好きなんです、私、A型なので(笑