英論文紹介: 輸血適応疾患の検討-犬の肝臓腫瘍
日中の診療の合間にデスクワークできるほど要領が良くないので、いざやろうと思い立ってパソコンと向き合うのはつい夜になってしまいます。今日もそのつもりでパソコンと向き合っていたはずがそのままパソコンの前でまどろんでしまい。いつもの丑三つ時を通り越して現在は午前3時半なので寅の刻くらいでしょうか。一日の始まりを意味する時刻のようなので、夜型のはずがうっかりもの凄い朝型デスクワークになっていて敏腕なビジネスマンになった気分です。さて、本日は英論文紹介なので私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧下さい。
肝臓は沈黙の臓器とよく言われますが、元々大きな予備力、たくわえがありますので、病状がかなり進行するまで症状として認識されることはありません。さらに肝臓はお腹の中の肋骨の内側に守られるように位置している関係から、肝臓腫瘍が皮膚のできもののように表面から見えることはなく、気付いた時には相当大きくなっていることも多く経験します。
しかし幸いなことに、犬の肝臓腫瘍の場合は大型であっても、発生部位がアプローチしやすい左側だと手術による根治が期待できます。一方、発生部位が真ん中や右側だと大血管との位置関係など解剖学的な要因から取れないこともあり、手術難易度が大きく変わってくると言われています。そこで色々な術式が検討されているのですが、筆者たちは腹部正中切開に加えて胸骨の尾側切開と横隔膜切開を行うことで、肝臓の付け根の部分である肝門部へアクセスしやすくして、主に中央肝区域や右肝区域の肝臓腫瘍を治療しようという試みを報告しています。この術式自体は昔から行われていましたが、意外と論文化されていなかったのかもしれません。
結果です。腹部正中切開に加えて胸骨の尾側切開と横隔膜切開を行うことでもちろん手術が取り組みやすくなり、合併症も多くなかったという報告なのですが、この英論文紹介の記事は主に血液のことを取り上げておりますので、本題ではない輸血のところに着目したいと思います。22頭中12頭で術中出血に対して輸血を行ったとあり、術中出血量の中央値は循環血液量の16.25%(13.8mL/kg)とのこと。症例の体重中央値が21.8kgだったことを加味すると出血量は300mL程度ということになり、人間の手術だとそんなに大きな出血量ではないかもしれませんが、犬の手術だと相当に大出血している印象です。マグカップ一杯くらいの量の出血が術野に出ていますから、現場の騒然とした雰囲気が容易に想像されます。
筆者たちも出血量や輸血量がこれまでの報告と比べて多かったことを少し文中で触れていましたが、それだけチャレンジングな手術だったのではと考察していました。オーストラリアからの報告で上述のように犬の体重中央値が21.8kgですからね。スケールがだいぶ大きい感じです。でも日本で小型犬に対して同様のアプローチを検討する場合、やはり輸血は準備だけでも必須ということになるでしょう。
と、ここまで肝臓腫瘍の手術をまるでどこでも普通に行っているように書いていますが、当院のような小さな施設では通常行っておりません。特に中央肝区域や右肝区域の腫瘍の切除は基本的に大きな動物病院で行う手術となります。でも知識として把握しておかないと大きな動物病院を紹介する際に困りますからね。とても参考になる論文でした。
さて、4時になって新聞屋さんの配達の音と小鳥のさえずりが聞こえ始めてきました。朝早くから本当にご苦労様です。私はと言うと記事を書き終わったので達成感と共にもうひと眠りしてしまおうかなと思います。ここからバリバリ仕事を続けられるような朝型の敏腕ビジネスマンへの道のりはまだまだ遠い様子です。