英論文紹介: 誤解凍の血漿製剤
秋雨前線や相次ぐ台風の影響で、関東地方を中心に記録的な長雨の日々ですね。毎日のように雨合羽を着て通勤しているせいか、だんだん雨合羽の防水機能が低下して、朝病院に着くと衣服の中にまで水が浸みていて残念な気持ちになります。とりあえず雨合羽をすぐに高性能なものに買い替えたりできない貧乏性の私は、まだイケると信じてしっかり干したり防水スプレーを振りかけたりと濡れ鼠にならないよう頑張っています。
さて、今月も英論文紹介をしていきましょう。今月は事故で誤って解凍されてしまった凍結血漿が、どの程度有効性を維持しているか調査した報告です。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご覧ください。
今までのブログのどこかで血液製剤の保存温度について触れたかもしれませんが、血液はそれぞれ保存に適した温度があります。たとえば赤血球製剤は冷蔵保存、血小板製剤は常温保存、血漿製剤は凍結保存といった具合です。勿論それぞれに意味があって、いずれの血液製剤も基本的には低温保存して細菌増殖リスクを抑えたいわけですが、赤血球は0℃あたりを通過する際に凍害を生じて溶血してしまうため、可能な限りの低温ということで冷蔵保存されています。昔勤めていた動物病院で不慣れな方が赤血球製剤を誤って冷凍庫でひと晩保存してしまい、見事に深紅に溶血していたのを目にしたことがあります。
血小板製剤は10~15℃より低い温度で保存すると輸血後の体内寿命が著しく短縮してしまうため、20~24℃での保存が原則とされています。一方、血漿製剤は凍結保存が好ましいとされており、凝固因子など成分の変質を防ぐため-20~-80℃で保存されています。
今回紹介する論文では、何者かが冷凍庫のドアを閉め忘れたのか、あるいはドアが壊れていたのか、ひと晩中冷凍庫のドアが開け放たれていてアラームもうまく機能せず、冷凍庫の中身=凍結血漿がすべて溶けてしまったという大事件が発生しております。楽しみにとっておいた氷菓が溶けたどころの騒ぎではありません。今回の論文では犬の新鮮凍結血漿が11検体、猫の新鮮凍結血漿が7検体、猫の保存凍結血漿が5検体の合計23検体もの血漿製剤が溶けてしまいました。朝出勤してその事件に気付いた第一発見者は顔面蒼白間違いなしでしょう。
しかし、この論文の筆者たちの凄いところはそこで絶望してただ血漿製剤を廃棄する訳ではなく、こんなことがあったら血漿製剤はどうなるのか、という点を研究して論文発表にまでこぎつけているところです。怪我の功名だとか禍を転じて福と為す、というほどの褒められたことではないかもしれませんが、23頭のドナーから提供された貴重な血液が完全に無駄になることなく、後世のために活かされたことは称賛に値するものだと感じました。
そしてその結果、10時間は常温に暴露されていたと推測された犬と猫の血漿製剤は概ね有効性が維持されていたそうです。最悪使えないこともないという結果ではありますが、当然、使用が推奨されるものではありません。こういった事故はないように再発防止策を講じることをまず検討するべきですが、それこそ被災して停電になった場合など、意図しない血漿製剤の解凍というのは意外とあり得る話なのではと、今回の長雨の経験を通じて色々考えさせられるところではありました。
停電対策については、以前働いていたところでは血液製剤は専用の冷凍冷蔵庫に収納して非常用電源装置に繋いでいました。また、使用後はドアを施錠していたので、この論文のようにドアがひと晩中開け放たれてしまうということは無いはずですが、緊急時に血液を出庫する場合など施錠を後回しにして忘れてしまうこともあるかもしれません。いずれにしても、このような失敗談を丁寧に論文化してくれると勉強になりますね。他人事とせず気を引き締めていきたいと思います。


