英論文紹介: 犬の血液型Kai1とKai2

6月に流行っていた犬の風邪症状が7月には落ち着いたなぁと思っていたら、8月に入ってあっちでゲホゲホこっちでゲホゲホと再び流行しております。6月に流行っていた地域と8月の今、流行っている地域の住所が少しずれているので、人間のインフルエンザ流行レベルマップみたいなのがあれば、特定の地域から徐々に拡がっていく様子がみられるのかもしれないですね。風邪に特効薬はありませんが、症状が辛そうであれば是非近隣の動物病院へご相談されてみて下さい。さて、今月も英論文紹介をしていきましょう。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページもあわせてご参照ください。

今月は比較的新しい犬の血液型であるKai1とKai2に関する研究報告です。犬の血液型でもっとも有名なものは、ご存知の通りDog Erythrocyte Antigen(DEA)に分類されるものです。1970年代にInternational Standardization Committee for Canine Immunogeneticsという団体がポリクローナル抗体を用いてDEAに基づく犬の血液型を8個規定し、DEA1をはじめとしていくつかの抗原が、50年以上経過した現在もなお一般的に用いられています。特にDEA1は輸血で急性溶血性輸血反応をおこす抗原として重要視されており、日本国内では唯一ルーティンに検査することのできる犬の血液型です。

DEAから30年以上経過して発見された有名な血液型は、やはり皆さまご存じのDalですね。2007年にアメリカの研究チームが報告した抗原であり、多くの犬はDal抗原を有していますが、一部のダルメシアンが欠損していることから発見につながった血液型です。その後の研究によりDalは7-9割の犬が陽性ですが、ダルメシアン、ドーベルマン、シーズーなどは比較的Dal陰性犬が多いのではないかと言われています。輸血で感作されたDal陰性犬は同種抗体の産生が確認されているため、溶血性輸血反応をおこす可能性が指摘されています。

そしてさらに10年経過した2017年、今回紹介するKai1とKai2が登場しました。これは韓国の研究チームが中心となって報告した抗原であり、やはりKai1陰性犬とKai2陰性犬は異型輸血により感作されて同種抗体を産生するため、溶血性輸血反応をおこす可能性のある血液型として重要視されています。

この筆者たちの凄いところは、Dalのときみたいに輸血後の症例ベースで同種抗体が産生されているから、Dal抗原があるかもしれない、よし、抗体を実験的に作製してみようというような話の進め方ではなくて、論文の流れ的にはもういきなりモノクローナル抗体を作るところから始めてます。つまり、初めにマウスに犬の血液を感作させてとりあえずKai1とKai2のモノクローナル抗体を作製し、その後、輸血歴のある症例やそのドナーの血液を提供してもらってKai1とKai2の存在や重要性を証明していくというような塩梅です。ビデオの逆再生をみているような気持ちになります。筆者たちは最初から勝ち筋が見えていたのだろうか。凄いです。

Kai1とKai2の発見から現在10年近くが経とうとしておりますが、モノクローナル抗体のおかげでその後、アメリカやドイツの研究チームからも続報が出てきております。例によって残念ながら日本国内でKai1とKai2をルーティンに判定する術はないのですが、特に犬の2回目以降の輸血においてはDalとならんで無視することのできない抗原です。引き続き情報のアップデートに努めていきたいと思います。