英論文紹介: 猫と犬の異種間交差適合試験

6月に流行っていた犬の上気道炎症状が見られなくなってきたと思えば、暑い日が続いているせいか、今月は胃腸の疲れと思われる消化器症状のご相談が多く寄せられました。食べ慣れないものを食べ過ぎないなど、日頃から気を付けられるところは気を配り、胃腸をいたわって過ごしていきましょう。さて、今月も英論文紹介をしていきたいと思います。私が更新している日本獣医輸血研究会のホームページも良ければあわせてご覧ください。

今月は猫と犬の異種間での交差適合試験に関する研究です。猫と犬?なぜそのような発想に至るのかと言うと、B型の猫はざっくりと10頭に1頭くらいの少し珍しい遭遇頻度です。ただ珍しいだけではなく、B型の猫は高確率にIgMからなる強い抗A型抗体を有しているため、いざB型のレシピエント猫に輸血をしようと考えた場合、同じB型のドナー猫を用意しなければなりません。1週間先や2週間先に予定輸血をしたい、というような猶予がある時ですらB型のドナー猫を探すのはやや困難ですが、危機的出血時など緊急事態において今すぐ血液が必要だとなった場合、さぁどうすればいいのかという話になります。そこで、A型猫をドナーにしたら激しく急性溶血性輸血反応が起きることが目に見えていますから、乱暴な話ではありますが、犬の血液を異種ドナーとして採用できないかという着想になるわけです。

実は犬→猫の異種間輸血は数十年以上前から緊急時に限り既に適応されており、ヨーロッパ、特にイギリスからの報告が個人的な印象では多いように感じております。2020年にも49症例の転帰を報告した文献が発表されていました。今回紹介している研究チームはイタリアのグループですが、犬→猫の異種間輸血のどこに問題があるのかをIn vitroで解析している内容になります。

結果、B型猫血漿vs犬赤血球の不適合は28.7%(66/230検体)、B型猫血漿vsA型猫赤血球の不適合は98.6%(69/70検体)で、いわゆるクロスマッチの主試験においては犬よりもA型猫の赤血球で明らかに不適合が多く確認されました。一方、B型猫赤血球vs犬血漿の不適合は85.3%(186/218検体)、B型猫赤血球vsA型猫血漿の不適合は37.7%(26/69検体)認められ、クロスマッチの副試験においてはA型猫よりも犬の血漿で明らかに不適合が多く確認されました。

つまり、貧血を呈するB型猫の非常事態において、同種であるA型猫のドナー血球より、異種である犬のドナー血球の方がIn vitroでは適合する確率が高いこととなります。注意しておきたいのは、犬の全血ではなく、遠心分離して犬の血漿を排除し、濃厚赤血球液にしたものを使用する必要があります。副試験の方でひっかかる確率が高いからですね。

倫理面なのか教育の結果なのか、日本の獣医療において異種間輸血がなされることは極めてまれだとは思いますが、海外だと意外と出てくるんですよね。いまさっとここ5年くらいの文献を検索しただけでも犬→タテガミオオカミ、牛→羊、牛→山羊、アメリカワシミミズク→メンフクロウ、猫→ヨツユビハリネズミなどなど。犬と狼とかはまだ分かりそうな気もしますが、猫とハリネズミの組み合わせとかどういうことなんだろう、とAbstractをみただけでは真意が掴めませんでした。

異種間輸血を自分でやろうと考えたことがなかったので、犬血球の方が適合しやすいとは大変驚愕な結果でした。もしB型猫の危機的出血に遭遇して数時間以内に輸血をしなければならない場合、B型ドナー猫が見つからなければどうするか。点滴だけして天を仰ぐか、溶血覚悟でA型猫から輸血をするか、あるいは犬からの異種間輸血を行うか、、とても考えさせられる文献でした。知識としてしっかり心に留めておこうと思います。